第77話 赤髪の美女

「大きな馬車ですね」


 私の乗っている馬車は、王城に近づきます。

 王城の近くに住んでいるということは、ひょっとしてアンちゃんは、すごい貴族なのではないでしょうか。


「とんでもございません。聖女様の専用の馬車なら、もっと豪華で大きいのですよ。ただ、その馬車で移動すれば、聖女様がいることを宣伝するようなものです。この馬車は聖騎士団所有のおんぼろ馬車です」


「そ、そうなのですか」


 おんぼろと、言っていますがたぶん、聖騎士団の一番良い馬車だと思います。装飾も美しいし、何より新しいですから。


「そうです。聖女様はそれだけ偉大な存在なのです。今回も聖女として参加するのでは無く、お友達として参加するということをお忘れ無く」


「はい、わかりました」


「さあ、つきましたよ」


 着いたお屋敷は、豪華で立派ですが、私の住んでいるお屋敷ほどではありませんでした。

 招待状を見せて、パーティー会場に入ります。

 そういえばこれが私の社交界デビューですね。

 部屋の中は、夜でも昼のように明るくて、そしてテーブルにはご馳走が並んでいます。

 大勢の人が、豪華なドレスを着て、楽しそうに話しをしています。


 私とライファさんが、部屋の明かりが届くところに入ると、会場の人達の視線が集まった。

 さすがはライファさんです。

 あまりにもかっこいいので、皆の視線を集めているようです。

 何だか私まで鼻が高いです。


「ライファ、何をしているのですか」


 あっ、エマさんです。

 今日はここの護衛の仕事をしていたのですね。


「あっ、隊長」


「あっ、隊長ではありません。あなたはイルナ様の護衛をしないと……」


 ライファさんが私を見ると、その視線の先をエマさんが追いかけました。


「はわわわ、イリュニャしゃまー。と、尊い……」


 あ、エマさんが壊れました。


「イリュニャ様と言うのですか。あの美しい少女は……」


 会場がザワザワしています。

 その騒ぎの中から、一人の女性がこちらに来ました。


「リオニアス、リアンと申します。今日は来ていただいてありがとうございます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか」


 長いストレートの赤髪で、優しい目の美女です。


「こちらふぁ、イリュニャ様です」


 私が美女に見とれていると、エマさんが紹介してくれました。


「少し人を探していますので、これで失礼します。楽しんで下さいね」


 キョロキョロ周囲を気にしながら、美女は人混みに消えていきました。


「おかしいですねーー」


「ライファさん、どうしたのですか?」


「いえ、たいしたことではありません」


 ライファさんは招待状を見つめています。


「あの、料理を食べてもよろしいですか」


 私は、机の上に並ぶきらびやかな料理に心奪われています。

 我慢出来ずに、質問しました。


「招待者なので、遠慮はいりませんよ」


 私はその言葉を聞くと、料理に飛びつきました。

 はしたなくバクバク料理を食べていると、最初私に感心を示していた人達の視線が徐々に減っていきました。


「うふふふ、私はふられてしまいました」


 先程の美女が悲しそうな顔をして、私の横に来ました。

 バクバク、料理を食べている私が悪目立ちしているので来たのでしょうか。


「イリュニャ様はどちらの方と来られたのですか」


「いいえ、私はお友達から招待状をもらったので、直接お供と二人で来ました」


「えっ」


 美女は、ほっぺたをリスの様に膨らまして、食事をしている私の顔をのぞき込んで来ました。


「かわいーー!!!」


 すごい嬉しそうな笑顔になりました。

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