第39話 野戦
「チョカイ様、アスラ様より預かっている物があります。戦いの前に飲むようにと」
シュザクさんが何だか、まがまがしい小瓶を差し出した。
黒い液体が入っていてまわりに、黒い霧のような物がまとわりついている。
「こ、これは、飲んで大丈夫なのか」
チョカイが驚いている。
「あのー、エリクサーにアスラ様が、素早さの加護を加えた物と伺いました」
「君は、どっちのシュザクさん、なんだ?」
確かに全く同じ姿の、シュザクさんだから紛らわしい。
「チョカイ様の護衛のシュザクです」
「ならば、おぬしにはこれをやる、そして今日からシュカイという名前を名乗ってくれ、見分けが付かん」
チョカイは、自分のシュザクに剣とシュカイという名を与えた。
シュカイと名付けられたシュザクさんは、何だかもじもじしてうれしさが伝わってくる。
だだの赤いモンスターであるシュカイさんが、もの凄く可愛く感じた。
よし俺も……
「シュザクさん、俺もこれをやる、そして今日よりシュブを名乗ってくれ」
俺もどうせ武器は棍だ、剣をシュザクさんに与え、シュブという名を与えた。
俺のシュザクさんはぴょんぴょん、とび跳ねて喜んでくれている。
うむ、反応は違うがこれはこれで、すばらしい。
この戦いが終ったら、服を買ってやることを決めた。
「あの、これを」
再び小瓶を、進めてきた。
俺はチョカイを見た。
苦笑いを浮かべて、シュカイさんから小瓶を受け取っている。
俺はシュブさんから小瓶を受け取り、一息に飲み干した。
「ふーっ、味は、普通のエリクサーと同じだな」
「オウブ、待たせても悪い、そろそろ開戦と行こうか」
こちらは、本陣の総大将にチョカイを配置し、守備を五百人、シュカイさん、スザク十人で守りを固めた。
先鋒は俺が騎馬に乗り務め、シュブさん、スザク十人、千人の歩兵で突っ込む事にした。
スザク達は、歩兵百人に一人配置し、百人隊の隊長とした。
「とつげきーーーー!!」
俺は号令をかけて、敵陣に向って馬の尻を叩き先頭を走った。
だがその横を、歩兵達が追い抜いていく。
おかしい、馬より早く走っている。
馬から下りて走ってみたら、俺の方が、馬より速かった。
――アスラ様の素早さの付与か!
全力で先頭に走り出て、先頭を走っていると、矢が俺たちの後ろにバサバサ落ちている。
そしてもう一度、後ろに矢が落ちると、目の前にリョウメイ軍が弓を構えている。
「うぎゃーーーー」
シュブさんが俺より早く敵陣に突っ込み弓隊を倒してくれている。
最も厄介な弓隊から倒してくれているようだ。
「オウブーー!! 敵大将が逃げるぞーー」
チョカイが俺に敵総大将を見るように言ってきた。
旗色が悪くなったリョウメイが自分だけ逃げようとしている。
「シュブさん、行ってくれ」
俺の言葉を聞くとシュブさんは敵兵を、吹き飛ばしリョウメイを追った。
門の前で手足を折って生け捕りにした。
「くそう!!」
捕まったリョウメイは、俺の顔をにらんでいる。
「降伏しろ」
「まだ城兵が残っている、降伏などするか」
普通なら城の守備兵を倒すのは、命がけだが、こっちにはスザクがいる。
「シュブさん城門を壊し、城内の兵を捕らえてくれ」
シュブさんが門に近づくと弓隊が、防壁の上から矢を放った。
矢が雨のように降り注いだがシュブさんは何の反応もしない。全く効いていないようだった。
門の前に着いたシュブさんは門を一撃で破壊するとスザクと共に城内に入った。
俺とチョカイの前にリョウメイの家族が連行されてきた。
城は落ちたが、驚くほど街は静かだ。
略奪や市民への攻撃は禁止してある為、ここで戦いがあったのが本当かと思えるほど落ち着いている。
「ひ、卑怯だぞ。家族は関係ないだろう」
「驚いたなあ、お前、嫁さん四人もいるんだなあ」
チョカイが、嫌みを言っている。
「だれかーー椅子を用意してくれ」
チョカイは時間がかかると考えて、椅子の用意を命じた。
兵士が椅子を用意すると俺とチョカイが腰掛けた。
「リョウメイ、どの様な処分を望むのだ。俺は、平和的に降伏をすすめたはずなのだが」
「お前こそ、忘れたのか。魔王が魔人に何をしたのか」
「うむ、魔王のイメージは悪いな。だがお前の中の魔王と、アスラ様はまるで違うぞ」
「その魔王は、何を望んでいるのだ」
「……」
チョカイは返事をせず目をつむったまま黙っている。
「何を望んでいるのだ」
リョウメイは再度尋ねた。
「魔人の繁栄だ」
チョカイは目を閉じたまま重々しくいった。
それは、魔王が本気で心の底から思っていることを代弁している様に見えた。
「な、何だと」
リョウメイは、チョカイの姿を見て言葉の重さを感じ、驚いていた。
「ふふふ、魔人の繁栄だとさ、その為の国土統一、そして人間に奪われた国土の奪還だ」
チョカイはここで突き放すように、まるで信じていないように言った。
「なっ……」
「そして、その後、人間達との共存共栄だとさ」
「他人事のように言っているが、お前は信じていないのか」
チョカイの突き放すような言い方を感じ取り、リョウメイがたまらず質問した。
「いや、心から信じている。なぜならあの方はモンスターとも仲良くしているからな」
リョウメイの質問を聞くと少し嬉しそうになり、シュカイさんを見て、話しを続けた。
「見てくれ、シュカイちゃんだ。お前にはわからんかもしれないが、シュザクというモンスターだ。可愛いだろ」
可愛いと言われて、シュカイさんがもじもじしている。
か、可愛い。俺にはわかる。すんごくわかる。
「ふむ、微妙にわかる気がする」
「リョウメイ、魔王は、俺たちを無理矢理支配しようとしているわけではない。一度会ってみてはくれないか」
「ふむ」
「まあ、嫌なら、開放するから自由に家族を連れてどこへでもいってくれ、俺たちはなにもしないことを約束しよう」
「ふむ、わかった。魔王様に一度あわせてくれ」
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