第16話 もう一人の勇者

「エクレールアロー」


 パレスが雷魔法を使用した。

 だが、全く効いていない。


「何をしている、逃げるんだ。俺たちの攻撃は効かねえ」


 ただのオークのはずなのに、俺たちの攻撃が効かない。

 すでに十匹以上復活している。

 アスラの奴はこんなバケモノを、普通の雑魚モンスターの様に倒していたのか。


「逃げるって言ったって、どこへ逃げるの?」


「百四十九階層の聖女の泉だ!」


 百五十階層のボス戦の前に、回復が出来る泉があった。

 あそこなら、結界があってモンスターが入ってこられないはずだ。

 俺たちは死に物狂いで走り出した。


「だからなのか」


 俺は思わずつぶやいた。


「ロドン、なんのこと」


「あーいや、アスラの奴、俺たちの攻撃が効かないのがわかっていたから、俺たちに、戦わせなかったのかと思ってな」


「そういえば、このダンジョンへは、あいつ一人で行こうとしていたわ」


「それを俺たちが無理矢理同行したんだ」


 天神の勇者アスラ、国王や王族、貴族からも教団からも嫌われている、嫌われ者。

 だから俺たちも、糞野郎と思っていたが、俺たちが困るような事はされたことが無い。

 なんであんなに嫌っていたのだろうか。


「ロドン、聖女の泉に逃げ込むのはいいけど、誰が助けに来てくれるのかしら?」


 パレスが俺に聞いて来た。

 俺たちは、この国で一番の冒険者チーム天神だ。

 俺たちで歯が立たないモンスターに勝てるものなど、アスラか、天帝の勇者ハルラ様しかいない。だが、天帝の勇者が他人を助ける為に、働いた話しは聞いたことが無い。

 いつも文句を言いながら人々の為に働くのはアスラだった。


「誰かが来るのを信じるしか無いじゃねえか」


「……」


 全員暗い顔になり、うつむいて、無言で走った。

 あれほど馬鹿にしたアスラが、来てくれるとは思えなかった。


「私達は何であれほど、アスラを嫌っていたのでしょうね」


 パレスは後悔しているようだった。






 ――王都、天帝の勇者邸――


「ハルラ様!!」


「どうした」


 メイドの一人が俺を呼んでいる。

 目が合うと、潤んだ目になり顔が赤くなる。


「教祖様から、神殿に来て欲しいと使いが来ました」


「ふふふ、すぐ行くと伝えろ」


「はい」


 すぐに部屋を出て行こうとするメイドの手首をつかんだ。




 神殿の入り口に着くと受付で足を止めた。

 美しい巫女が座っている。


「ハルラ様、教祖様が祭壇でお待ちです」


「うむ」


 美しい巫女は、みな教祖の女だ。

 教祖はオークのような醜い顔で頭に毛がなく、まともに歩けない程太っている。女好きで泣いている女は多い。そのくせ他の教団の男には、禁欲を強いている。

 まあ、俺も女癖の悪さは人のことは言えないがな。

 ふふふ、それを言うなら国王だって、何千人も美しい女を後宮に住まわせている。


 そういえばあれは笑ったな、第三王女。

 あいつブスのくせに俺の事を好きだとか言うから、言うとおりにしたら結婚してやると行ったら、くっくっくっ、まんまと騙されたなー。


 アスラに乱暴されたと証言しろと言ったら、見事に演じてくれた。

 あれでアスラは評判が落ちて、誰からも相手にされなくなったよなー。

 必死で無実だと言っていたが、誰も聞く耳を持たなかったよな。

 俺にまで信じてくれと言っていたよな。

 知っていたよ、お前が無実なのわ。


「ぐわーーはっはっは」


 いけねー、声が出てしまった。

 その後が傑作だった。

 第三王女が、結婚とか言ってきたから、「アスラに乱暴された女なんかと結婚出来るか!」と言ったら、自殺しやーがった。

 そのおかげで、アスラの評判が余計に悪くなって、大笑いしたなー。


「ふふふ」


 いけねーー、また声が出てしまった。


「天帝の勇者様は、何だかご機嫌ですな」


「ほう、そういう教祖様も機嫌がいいじゃ無いですか」


「ふふふふ、これを見れば、ハルラ様もきっと笑うと思いますよ」


 教祖は祭壇の右に視線を移した。


「こ、これは!!」


 俺は、笑うより、驚きの方が大きかった。

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