第20話



 ユーバシャールでの開発や商品生産は、今回の視察においてだいたいの目標値ができたし、伯爵様も軍上層への報告に向かうにはいい時期だと仰るので、パーシバルとジェシカの結婚式に出席する為にも、わたしと伯爵様は再び王都へと向かった。

 ブレイクリー卿にも一言入れたら、なんかラッセルズ商会に直接かけあって、いろいろ買い込んでこいとか言われた……。

 まあ、そうですね、足りないものはたくさんありますからね。

 ブレイクリー卿からはあれ以降、わたしに対する当たりはない。

 ないとまた別に、あらー本格的に嫌われたかしらー? とか思いもするけど、ラッセルズ商会からもろもろ買って送ってよこせとか言うからには、態度が軟化したとみていいのかも?

 ほんとわかりにくいお人だ……。

 ひさびさの王都で、駅から降りて馬車に乗ると、いつもと道順が違うなって感じた。でも、わたしは王都だと、ロックウェル伯爵邸で過ごしているのよね。

 結婚すると、いままでの違いをこんなふうに感じていくのかな。

 単身でウィルコックス領から王都のタウンハウスに戻った時の、ジェシカの朗らかな「お帰りなさーい」がちょっと懐かしい。

 今更だけど……伯爵様が「お帰りって言ってほしい」ってそういう感じなのよ……。


「お帰りなさいませ、旦那様、奥方様」


 ロックウェル邸に戻って、ノーマンの言葉を聞くと、内心「奥方様」はまだ早いんだけどなぁって思う。

 でも、きっとこれも慣れていくんだろう。

 その証拠に、ちょっとほっとする。

 新しい、わたしの家族――……。


「どうした? グレース。少し疲れたか?」


 わたしは伯爵様を見上げる。


「大丈夫です。今日はちょっと休んで、明日、ウィルコックス邸に行きます。ラッセルズ商会にも顔を出さなければ」

「そうだな、俺も報告が終わったらウィルコックス邸に迎えに行く」

「ありがとうございます。ヴィンセント様」


 わたしがそう言うと、伯爵様は嬉しそうな表情をする。

 そして、伯爵様と負けず劣らず嬉しそうなのが執事のノーマン氏だった。

 そっか……、執事をはじめとする使用人達も、わたしが伯爵様呼びするよりもお名前呼びの方がいいのか。

 これはわたしが照れちゃうから~とか言ってられないか。

 頑張ってお名前を呼ぼう。




 翌日、ウィルコックス邸に赴くと、ジェシカがウェディングドレスの最終確認を行っていた。

 去年デビュタントした時とはまた違うデザインのドレスだ。ジェシカがデザインを自分でおこしたらしい。

 自分に似合ってるものがわかってるのねえ。


「グレースお姉様! どうですか!? 似合いますか!?」

「似合ってるわ! とてもいいじゃない!」


 ウェディングベールも、プチアラクネの糸で透け感が素敵!

 式当日は、ヘッドの両サイドに生花を添えて、ベールを飾るようで、今日は確認なのでヘアメイクの確認までらしい。

 可愛い~若々しい花嫁感がでてる!

 いやいや、しかし、素晴らしいね、このドレス。

 本当に貧乏子爵家の時には妹にこんなドレスを着せることとか、想像もできなかったけど、みんなでウィルコックス家を盛り上げてきたその証拠よね。


「お姉様も、結婚したくなった?」

「そうね……今まで、ちょっと考えていたのよ。わたしでいいのかしらって」


 わたしのその言葉を聞いたジェシカが目を見開く。


「は? 何を言ってるのですか? グレースお姉様をおいてロックウェル卿の隣に並ぶ女性なんてどこを探してもいませんけど?」


 瞬きしないで息継ぎなしに一気に言い切るとか、ジェシカちゃん怖いんですけど?

 それにしてもわさわさとメイドさん達がこのウィルコックス家にてジェシカの花嫁衣裳の確認を行ってはいるんだけど……。

 いるべき人の姿が見えない。

 一も二もおいて、ジェシカの結婚準備には口も手も金も出す、パトリシアお姉様の姿が。


「ジェシカ、パトリシアお姉様は?」

「それが体調を崩されたみたいで」

「え?」

「わたしも、ラッセルズ商会に行こうとしたんだけど、メイドさん達が、パトリシアお姉様の指示を受けているので、本日の準備はやっておくと」

「――そう」

「グレースお姉様はこのあと、ラッセルズ商会に行かれるのでしょ?」

「ええ、様子を見てくるわ」


 うちの末っ子の結婚式に体調不良で欠席なんて、パトリシアお姉様がいなくてはジェシカもパーシバルも結婚式延期するとか言い出しかねないし。

 でもそういえば、思い返してみると、わたしがロックウェル邸に居を移した時も、なんか顔色悪くて伯爵様に指摘されていたし……。

 やだ、心配だわ!

 ジェシカのウェディング・ドレスの出来具合の確認をすると、メイドさん達に「じゃあ、本人を磨き上げてやって」と指示を出す。

 いつぞやのお返しよ。

 髪の先からつま先まで磨き上げてやってちょうだい!


「グレースお嬢様、ロックウェル卿がお迎えに見えました」


 執事のハンスがわたしに伯爵様の来訪を伝える。

 わ、さすが伯爵様、いいタイミングだわ。


「ハンス、わたしはこれから、ラッセルズ商会に行きます」

「はい、パーシバル様も打ち合わせで先方にいらっしゃると思います」


 ハンスの言葉にわたしは頷く。


「わたしがいなくても、ジェシカもパーシバルもしっかりしている様子が見れて、安心したわ」

「はい」

「ハンスも身体には、気を付けて」

「ありがとうございます。グレース様」


 エントランスに降りると、伯爵様がいらしてた。


「どうだった? ジェシカ嬢は?」

「素敵でした。本番の当日がとても楽しみです」


 伯爵様のエスコートで馬車に乗り込む。

 わたしが学生の時に使ってたウィルコックス家所有の馬車とは揺れが違う、ちょっとお高めの車体なのよね。

 ウィルコックス家も2年ぐらい前に、馬車の車体を変えることができて、揺れがすくない最新型を購入したのよ。きっとジェシカが乗って領地に向かっても、あれなら大丈夫よね。

 さて……それよりもまず、パトリシアお姉様よ。

 何事もなければいいのだけれど。


「ジェシカ嬢の方は問題ないと言ってたけれど、何か浮かない顔だね」

「伯爵様――……じゃなくて、ヴィンセント様は、よくわたしの表情を読めますね」

「さあ、なんでだろうね。で? 何か気がかりが?」

「パトリシアお姉様の体調がよろしくないと、妹から知らされまして、心配してるのです」

「そうか……それは気になるね」


 隙間窓から御者に、指示を与える。多分、少し早めに馬車を駆れっていう指示なんだろう。

 揺れが少ないけど、窓から流れる景色のスピードが違う。

 はあ~、こういうところですよ、なんてスマートなのか!

 モテちゃうでしょ! 


「ありがとうございます。ヴィンセント様」

「どういたしまして。こういう男を夫にしたくない?」

「もう結婚したいですよ」


 わたしがそう言ったら伯爵様は嬉しそうに破顔した。





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なろうとカクヨム、作品公開時は常に予約投稿12時としていましたが、現在ストックがなくて、書いて即日公開します。

更新はだいたい3日以内のうちに次話更新を目指します。


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