第69話 やっぱり地道が一番なのだろうか

 鋼鉄の鎧を貫いたことで領民から喝さいを浴びたオレは、再びグエイグの剣を構えた。


 今度は鉄の台座の据えられた銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの素材である水晶体に狙いを付ける。


 先ほど貫いた鋼の鎧よりも格段の固さを誇る銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの水晶体を断ち斬ることができれば、この剣の強度はエルクラストでもかなりの上位食い込む固さを誇る剣ということが証明されることになる。


「翔魔殿より預かったこの銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの水晶体だが、変異種ということもあり、通常の銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの水晶体の数倍以上の固さを発揮しておるわ。ワシも長い事、害獣素材の研究もしておるが、こんなに個体差が出た素材は初めてだぞ」


 鉄の台に据えられている水晶体は、途中で合体して双頭の銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンになった物が置かれていた。


「変異種の素材か……確かにステータスは高かったからなぁ」


「その剣には銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの水晶体の粉も混ぜて鍛え上げてあるからな。強度アップにも靭性アップにも貢献してくれているはずだ。思いっきり、地面に向けて振り切ればいい」


 思いっきり振ればいいか……。全力で振り抜いてみるか。


 グエイグは自らの作ったチタン合金製の剣を見て、自信に満ちた顔を見せた。


 領民達も次に行われる据え物斬りに向けてボルテージが上がっていく。


 オレもその熱気に当てられた。


「いくぞっ!」


 振り上げた剣を力いっぱいに銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの水晶体に向けて全力で振り下ろす。


 剣の刃が水晶体に触れると、鋼鉄の鎧を貫いた時とはけた違いの手ごたえがオレの手に跳ね返ってきて、欠けた水晶体の破片がオレの頬を掠めて飛んでいった。


 全力で振り抜いたことで大気が震え、広場の砂が広範囲に舞い上がった。


 やべえ、斬れなかったか。


 巻き上がった大量の砂煙によって両断できたかは確認できない。


 やがて、砂煙が晴れていくと鉄の置台に据えられていた水晶体が粉々に砕けているのが、目に飛び込んだ。


 その様子を見た領民達が、やんやと囃し立ててくる。


「綺麗に切れておるな……。あれだけ固い水晶体の断面がこれだけ綺麗だとなると、相当な力がかかったはずだ。ワシの作った『絶対に折れない剣』は完成だな。あのクソ固い銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの水晶体を叩き切っても傷一つ付いてない」


 グエイグが四角錘の剣の様子を確認しながら、ニヤニヤとした顔をした。


 オレのへっぽこな腕でも、固い水晶体を斬れたのは、もともとの切れ味と剣の固さが勝ったのだろう。


「オレが全力で固い物を攻撃しても、折れないという条件をクリアしてますね」


「ワシの作った剣の出来に不満があるのか? 要求されてスペックはかなりの部分で満たしていると思うぞ」


 スペックは満たしている。


 それはオレもよく理解しているのだが、スタイルがやはり納得がいかないのだ。


 突くことも刃で斬ることもできると思うが、形状がどう見ても剣とかけ離れているのが気になってしょうがなかった。


「グエイグさんの剣は素晴らしい出来ですが……。もう少し剣っぽく改良できませんかね? これじゃあ、実戦には使えても、儀礼用途で帯剣できないですし」


 領主でもあるため、エルクラストの公式の場では貴族として正装とともに帯剣を求められる場合もある。


 その時、この剣ではさすがに恥ずかしい。


「そうか? ワシは機能的だと思うし、そういった儀礼用の剣があってもいいとおもうが」


 いやいやいや、さすがにこれは目立ちすぎるって! もっと普通で折れにくい剣が欲しいっす!


「オレはまだまだ剣の腕が未熟なので、真面目に剣の修行をしようと思いました。グエイグさんにはお手数を取らせましたが、できればこの素材を使い、普通の剣を制作してもらえるとありがたいです」


「なんと! 翔魔殿が剣の練習をされるのか?」


 グエイグはオレが剣の練習をすると言ったら驚いた顔をした。


 オレだって必要だと思えば練習くらいはする。


 こうして、グエイグさんの作った四角錘のチタンブレード(?)はお蔵入りとなり、新たに通常のチタン合金ブレードを制作を依頼することなった。

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