第4話 替え歌

「昔の人はラジオの英会話講座を聞いてリスニング能力を上げていたらしいわ」


 英語の勉強が終わった後、次は古文の勉強を始めるというところで、すみれ先生が語った。


「へえ」


「ちなみに悠くんはラジオとか聞く?」


「あー、ラジオを聞くやつ……名前なんでしたっけ? ラジなんとか持ってないんで聞いてないです」


「聞くやつもラジオよ。一応、君が言いたかったのはラジカセね。ラジオカセット。でもラジカセなくても無料アプリでラジオが聴けるわよ。それに100均の雑貨屋とかでもラジオが売ってるわよ」


「へえ」


「ラジオ聴いてみたい?」


「別に」


「なんで?」


 すみれ先生が驚く。


 なんでって言われても、そりゃあ──。


「聴くのって苦手なんですよね。というか喋ってるのを聴くだけってのが好きではないんです」


「それはがないと駄目ってこと?」


「えーと、画があっても、喋ってるのをただ聴き続けるのは好きではありませんね。テレビでもトーク番組系は苦手です」


「それじゃあ、『本当にスベりたくない話』、『鉄雄の部屋』、『ハレトーク』、『絶対食べず嫌い王』も駄目?」


「『ハレトーク』は体当たり映像とかがある回は好きですよ」


「友達とかクラスメートもラジオとか聴かないの?」


「聴いてる子は少ないですよ。アイチューブやチィンクトックの動画の話ですよ」


「今の子はアクション系が好きなんだ」


「今の子って、先生もあまり歳離れてないでしょ?」


 すみれ先生は20歳の現役大学生アイドル溝渕かすみだ。僕と3つしか変わらない。


 それは設定とかではなく、事実である。


 ネットがなかった昔時代ならサバ読みや嘘の経歴なんて当たり前だけど、ネット時代である今ではそういうのはすぐにバレる。


 ちなみにネットでは溝渕かすみの大学での情報が載っている。ただ本名は個人情報なのか載ってはいなかった。

 ──が、ちょっとネットの奥を調べると本名が載っているのがネットの恐ろしいとこ。


「でもトーク番組嫌いなんでしょ?」


「好きなタレントや芸人が出るなら見ますよ」


「そうなの!?」


「ええ」


 すみれ先生は「そっか、そっか」と独り頷き、納得している。


「実は今度の『ハルエのわっしょい』というラジオ番組でシャインドリームのメンバーが出演するのよねー!」


 すみれ先生はあさっての方向を見て言いつつ、ちらっと僕の反応を伺う。


「ラジオ番組?」


「そう。悠くんシャインドリーム好きでしょ? これを機にラジオ聴いてみたら」


「そうですね。その番組、視聴してみますよ。えー、なんでしたっけ?」


「『ハルエのわっしょい』よ。23時から30分だけの番組。内容はトーク、歌、トークよ。歌は新曲だから」


「……詳しいですね」


 すみれ先生、隠す気あるの?

 それだと他の人にもバレちゃうよ?


「た、たまたま、耳に入ってね。アハハ」


「そうですか。シャインドリームが出るなら聴いてみようかな」


「えー!? 聴くの!?」


 すみれ先生は親友人知人には聴かれたくないような反応をする。


「ダメなんですか?」


「ううん。全然ダメじゃないよ。さ、勉強再開よ! えっと、リスニングの勉強だったかしら」


「次は古文です」


  ◯


「今日はこれでお開きね」


「はい」


 僕は息を吐き、テキストを閉じる。


「ところで替え歌って知ってる?」


「替え歌?」


「ええ。コーナーで使われ……大学でね、話題になっててね……悠くんは何か知ってるかなって」


 なるほど。次のラジオ番組で替え歌の話をするのか。


「サ◯エさんの替え歌とか、森のクマさん、タンタン狸の〜くらいですかね」


「狸の金玉って替え歌なの!?」


「……先生」


「あっ、いけない。アイドルが金玉なんて言ってはいけないわね」


 ……アイドルでなくて、そこは女性ですよー。アイドルだってバレますよー。


 しかし、すみれ先生の口から金玉。ドキっとする。


「えーと、元は宗教の歌だそうですよ」


「へえ」


「あとはタイトルは忘れましたけど『烏ーなぜ鳴くのー、烏の勝手でしょー』とか『パンツの穴から屁が出るぞ!』って歌です」


「それはうちの大学でも話題になったわ。特に烏のは替え歌の方が本物だと思ってた人が多いらしいわね。それとタイトルは分からないけど、フレーズだけ知っているって人が多いのよ。ちなみにパンツの歌は地域によってフレーズが違うらしいわよ」


「どんなのです?」


「『パンツが破ける屁の力』とか、『パンツを破くぞ屁の力』、あとは『パンツ穴から屁の力』だって」


「女性が言うには恥ずかしい替え歌ですね」


「そうね。使えないわね」


 すみれ先生は苦笑いした。


「使う?」


「あ、その、会話に使えないってことよ。アハハ」

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