ばいばい、さよなら
「悠真君、もっとぎゅーってして……悠真君を、もっと感じさせて……もっと隙間なくなるくらい、ぎゅーって抱きしめて」
「うん、わかった……大好きだよ、風花ちゃん」
「風花も。風花も悠真君の事、大好き……この時間、ずっと続けば、良いな……こうやってずっと、悠真君と大好きして、大好き同士で、お互いを感じ合って……そんな幸せな時間が、ずっと続いてほしいな……悠真君と、大好きして、お互い大好きな幸せの時間……この時間が永遠ならいいな」
「それはダメだよ、風花ちゃん。難波ちゃんが待ってるでしょ、風花ちゃんには。難波ちゃんの事、大好きしてあげなきゃ怒るからね」
「わかってる、わかってるよ……でも今だけは、悠真君の事、大好きでいさせて……悠真君を大好きな、風花でいさせて」
「わかってる、大好きだよ……俺も今は、風花ちゃんの事を大好きな、俺だから」
「うん、大好き……風花も大好きだよ……悠真君の事、風花も大好きだよ……もうちょっとだけ、悠真君の事、大好きにさせて」
☆
午後5時半、放課後の自室。
「電話出てきた。今から、翠ちゃんのところ行く……ありがとね、悠真君。風花、大事なもの気付いた……だから行ってきます。風花、翠ちゃんのとこ、いってきます」
しばらくベッドでお互いの気持ちを確かめ合った後、電話に出るため少し外に出た風花ちゃんが、すっきりしたような、どこか晴れ晴れとした表情で俺の部屋に戻ってくる。
それが良いよ、そうするのが絶対正解だよ。難波ちゃんと仲良くするんだよ、風花ちゃん。大好きって言ってくれる大好きな人と仲良くするんだよ、風花ちゃん。
「うん、わかってる、悠真君。私は翠ちゃんと仲良しする、翠ちゃんの事も大好きだもん。翠ちゃんを、悲しませるの嫌だもん」
「うん」
「……でも、たまには風花の事、大好きな幼馴染の悠真君に、甘えて良いよね? 悠真君に甘えて、大好きな悠真君と一緒に大好きで幸せな時間、過ごしてもいいよね? 風花、悠真君と、大好きな甘々時間、過ごしていいよね?」
「うん、たまにはね。俺たち、ずっとそうだったし……昔みたいに、大好きな幼馴染として、幸せな甘々時間、過ごそうね」
「うん、うん! 幼馴染だよ、風花と悠真君は、ずっと大好きな幼馴染だよ! 絶対だよ、絶対だからね悠真君……それじゃ、バイバイ。バイバイ、さよなら。さよなら、悠真君」
「うん、バイバイ。さよなら、風花ちゃん」
少し寂しそうに、でもどこか嬉しそうにも見える笑顔で手を振る風花ちゃんに俺も笑顔で手を振る。
バイバイ、風花ちゃん。さよなら、風花ちゃん。
難波ちゃんと仲良く過ごすんだよ、絶対悲しませちゃダメだからね……あと、今日会いに行くなら、パンツは履き替えた方が良いかもだよ。
「もう、悠真君のえっち。わかってるよ、言われなくても……それじゃあ、本当にバイバイだね。じゃあね、悠真君……バイバイ」
「ふふっ、ごめんね。じゃあね、風花ちゃん……バイバイ、さよなら」
ぺー、っと可愛く舌を出して部屋を出ていく風花ちゃんに俺はまた全力で手を振って、その背中を見送る。
その階段を駆け下りる足音は段々と小さくなっていって、ガタン、と大きな扉の音ともに、一気に家の中に静けさが押し寄せる。
「ふ~……バイバイ、風花ちゃん」
そんな家の中で、俺はベッドに腰かけたまま、天井に向かってそう呟いた。
バイバイ、風花ちゃん。バイバイ、俺の初恋……だから今は、俺も今の恋愛に集中しないと。今、俺をちゃんと大好き、って言ってくれる大好きな人を大事に、大好きにしてあげないと。
風花ちゃんのおかげで、俺もちゃんと気づけたよ。俺も大好きな人、ちゃんと大事にするよ。
ポケットからスマホを取り出して、LIMEを開く。
そして一番上に表示されている人―今、俺が大好きで愛してる人に電話をかける。
「……あ、ゆ、悠真君! どうしたの、こんな時間に?」
しばらく耳を画面につけていると、電話口から聞きなれた幸せの声が聞こえてくる。
良かった、いつもの声だ……大好きな人の、大好きないつもの声だ。
「あ、ごめんなさい、秋穂さん。授業中でしたか?」
「うん、授業中だったよ。でも大丈夫、悠真君の連絡なら、いつもでも出るから! おトイレ行くって言って、授業抜けてきたからしばらくは大丈夫! それで悠真君、何かあったの? 悠真君から電話かけてくるなんて珍しいね、嬉しいけど!」
「ふふっ、授業はちゃんと受けてください、秋穂さん。いえ、大したことじゃないんですけど、その……秋穂さんの声、聴きたいなって思いまして。秋穂さんの声、今すぐ聴きたいな、って思っちゃったんです」
「え、ホント! えへへ、悠真君、私も……こほん。も~、悠真君は甘えんぼうさんだな~、夜まで待てなかったの~? 私と夜になったら話せるのに、そこまで待てなかったの、悠真君? えへへ、そこまで私の事大好きに思ってもらえてるなら、嬉しいけど……えへへ、私も大好きだよ、悠真君」
そう言って電話越しでもわかるくらいの幸せな笑みをくれる……ふふふっ、やっぱり秋穂さんは可愛いな、嬉しいな、こんなに大好きに思ってくれてるの嬉しいな。
「はい、俺も大好きです。それじゃ、声も聴けたしまた夜にお電話しましょう。秋穂さんも授業ですし」
「え、もう? もうちょっと話しても良いんだよ? 悠真君となら、もっといっぱい、色々話せるな~! だから、もうちょっと話さない?」
「ダメです、授業中でしょ? だから、ダメです、授業戻ってください……あ、明日、秋穂さんの家行っていいですか? 明日、お家デート、大丈夫ですか?」
「ぷー、悠真君のケチ……え、デート! 良いよ、もちろん! えへへ、悠真君から誘ってくれるなんて珍しいね、私嬉しい! えへへ、明日が楽しみだね、もちろん今日の夜も! えへへ、楽しみふえたし、これなら授業戻れる! それじゃまたね、悠真君! また夜に!」
「はい、また夜に! またねです、秋穂さん!」
嬉しそうな、楽しそうな声色で電話を切る秋穂さんに、俺まで嬉しい気持ちになりながら、俺も電話を切る。
「ふふふっ、秋穂さん……やっぱり大好きです、秋穂さんの事。秋穂さんと、ずっと一緒に居たいです。ずっと一緒に居ましょう、秋穂さん」
やっぱり俺、秋穂さんの事大好きだ。
だから明日もデートしよう、出来るなら明日も明後日も……もっといっぱい秋穂さんと過ごして、幸せな時間、作っていくんだ。
~~~
「あ、翠ちゃん! ごめんね、遅くなって……うわっ!?」
「遅いよ、遅いよ風花……何やってたの、どうしたの!? 電話出るのも遅かったし、それに、それに……ねえ、風花? 風花の一番は誰? 風花が一番好きなのは誰? 誰なの、風花?」
「……もちろん、翠ちゃんだよ。私は翠ちゃんが一番だよ。大好きだよ、翠ちゃんの事!」
「……そっか、そっか……それじゃあ、私の事めちゃくちゃにして?」
「……え?」
「今日親いないから……だから私の事、めちゃくちゃにしてよ。私の事、風花でめちゃくちゃにして……他になにも残らないくらい、風花でめちゃくちゃにしてよ! ねえ、風花!」
―風花、まだ嘘ついてる、まだ野中の事好きなの、残ってる。野中の匂い、風花からいっぱい感じる……あの泥棒男の匂い、いっぱい感じる。
―許さない許さない許さない……私の風花なんだから! 風花は私だけだから、私だけなんだから! 今からそれ、全部に刻み付けてやる!!!
★★★
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