第6話 山と星空

 結局のところ、行く当てがある訳では無い。この旅には。


「寄りたいところがあったら、言えよ?」


 そうしずくには言ってあるが、


「別に、今のとこ無いかな」


 とのこと。

 彼女が退屈しないように、運転しながらくだらない会話をしている。


「雫はよぉ、宝くじ当ったら何が欲しい?」


「額によるかな」


「うーん、そうだな……十億ぐらいでどうだ?」


「馬鹿じゃないの」


 そう言って彼女は少し笑ったと思う。

 数日前の港からだが、彼女は気付けば後部座席の右。つまりは俺の後ろの席へと移動していた。


 声はよく聞こえるが、その表情はバックミラーでも見えない。


「そうだね、それだけあるなら……」


 窓の外を見て、考える。


「幸せが、欲しいかな」


 呟くような、一言。


「また難しいことをおっしゃる」


 たまらなくて、茶化してしまった。

 たぶん、その言葉は俺たちから一番遠い言葉だから。


「そうね」


 今度は、苦笑いだったように思う。


「トイレ大丈夫か?」


 トイレ休憩は数時間事に挟んでるが、お互いに極端に少ない気がする。俺はともかくとして、雫が我慢してるようだったらそれは良くない。


「大丈夫」


 彼女が見つめる窓の先。

 同じ景色を見ているのだろうか。時々、不安になる。俺が見ているモノは、果たして現実なのだろうか。


「まぁ、いいか」


「何?」


「何でも無い。独り言ってやつだ」


 車は山道を登ってゆく。

 木々に囲まれた道を抜け、開けた場所に出る。


 ガタついた砂利だらけ駐車場へ、停止。


「今夜はここで寝よう」


「キャンプ場?」


 近くにあった看板をみた雫が呟く。


「管理人もいなくなって放置されたとこだがな」


「港のときも思ったけど、変なとこばっか知ってるね」


「まぁ、行動範囲が狭いからなぁ。そのせいだと思う」


 前にで言った場所しか知らないんだ。


「夕飯は、カップうどんで~す」


「私、きつねがいい」


 道中の業務用スーパーで買ったカップうどんを取り出す。山の時間の流れは早く、辺りはもう暗くなってしまっている。


「コンロとって~」


「はい」


 後部座席に詰まれてる調理器具から湯を沸かすための手鍋と一緒に手渡される。


「おぉ、取ってくれるとはな」


「……しなきゃよかった」


「そんなぁ~」


 時間的にはそろそろか。


 この駐車場は街の灯からも離れ、余計な光りは無い。湯を沸かしながら、空を見上げる。


「空、見てみ」


「ん?」


 二人で見上げた空には、満点の星空が見えた。


「わぁ……」


 雫が目を見開き、空を見上げてるのが分かる。天の川なのだろうか、知識が無くて分からない。星も、星座の名前も分からない。でも、


「キレイだろ?」


「うん」


 良かった。

 まだ、同じモノが見えているみたい。


 この星空を、彼女に見せたかったんだ。

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