第6話 王妃の思惑

 ◇◇◇


「それで?少しはライラと仲良くなれたのかしら」


 王宮の庭園で、王妃はくすくすと笑いながら、目の前の男にいたずらな視線を送る。


「はあ……彼女が一筋縄ではいかないのは、とっくにご存じでしょう」


 がっくりと肩を落としているのは、チャールズだ。


「まあ、『氷の貴公子』ともあろうものが、意中の相手一人落とせないなんて、情けないこと!」


 チャールズは王妃にじとりとした視線を送る。


「大体、私がこうして手をこまねいているのは、王妃様のせいだということをお忘れなく」


 チャールズの恨み言に、王妃はひらひらと扇を振るう。


「あらあら、だからこうして取り持ってあげているじゃないの」


 チャールズは生徒会で一緒に仕事をするうちに、真面目で真っすぐなライラを気にかけるようになっていた。こちらが心配になるほど駆け引きができず、他人の言動の裏など考えようともしない。それなのに、その嘘のない真っすぐな瞳に見つめられると、誰もが嘘を付けなくなるのだ。ライラに関わった誰もが、ライラを裏切りたくない、ライラに嫌われたくないと思わせる不思議な魅力を持っていた。


 気が付けばチャールズも、その真っすぐな瞳に恋をしていた。だが、恋愛ごとに鈍い彼女は、どんなにチャールズがアピールしても全く気付いてくれることはなかった。陰ながら彼女を慕うものは後を絶たず、チャールズは気が気ではなかった。そのため、いっそのこと卒業と同時に婚約を申し込もうと両家に打診していたのだ。


 だがあの、生徒会主催の狩猟大会の日。突然観覧席にいた王妃に襲い掛かったアイアンベアを、誰もが動けない中、生徒側の警備として参加していたライラは一人で倒して見せたのだ。当時、王妃は第一子を妊娠中だった。明らかに異常な状態のアイアンベアは薬で狂っており、後になって政敵により仕組まれたものだったことが明らかになる。


 ライラのあまりに見事な剣の腕に感動した王妃は、その場でライラを自身の護衛騎士として任命してしまう。


「今、私のお腹の中には国王の第一子がいるの。あなたがいなければ、私ともども失うところでした。これからはわたくしの傍で、未来の王を守ってくださる?」


 その言葉に、ライラは深く頷いた。


「王族の護衛騎士として選ばれるは騎士として何よりの誉れ。王妃様とお腹のお子様のことは私が命に代えてもお守りいたします」


 こうしてライラは、貴族学園の卒業を待たずに王妃の護衛騎士として抜擢されてしまったのだった。婚約の話は自然と立ち消えになり、絶望の表情を浮かべるチャールズの気持ちも知らずに。

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