【完結】助けた迷子の美少女留学生は海外トップのVtuberで俺の推し
そらちあき
第1話、推しとの日常
「Ren, can you tell me what I didn't understand in class earlier?」
隣の席から聞こえてきたのは流暢な英語だった。
透き通るようなその少女の声に俺は顔を上げる。それは午前の授業が終わって昼休みになり、のんびりとした時間を過ごそうと思っていた時の事だった。
『さっきの授業で分からなかった事があったから教えてくれない?』と頼んできたくせにやたらと自信満々な表情を浮かべているのはソフィア・ワットソン。
彼女はこの春、俺の通う美谷川高校にやってきたイギリス人留学生だ。
腰まで伸びたさらりと煌めくブロンドの髪に、宝石を思わせる澄んだ碧眼。人形のように整った顔立ちはとても愛らしく、身長は小柄だが抜群のスタイルの持ち主で、彼女は学園一の美少女として知られている。
しかしソフィアはイギリスから日本に来たばかりでまだ日本語が話せない。リスニングは出来るが、それを日本語で返す事が出来ないのだ。
そんな彼女がいつも頼りにしているのは隣の席に座る俺――月白 連。
イギリスからやってきた天使のような美少女留学生と、地味で浮かない雰囲気のある俺。一見すると全く接点のないように思えるが、俺には他のクラスメイトも驚く意外な特技があった。
俺はソフィアの方に振り向き、早速その特技を披露していく。
「It's okay that you didn't know, but don't be so confident」
『分かんなかったのは良いけど、やたら自信ありげに言うのやめろよ』
「Because I don't know what I don't know. Or shall I ask you with upward glance? Ren, tell me~♡」
『だって分からないものは分からないんだもん。それとも上目遣いでお願いしよっか? レン君、教えて~♡』
「Don't do that, as it is counterproductive……」
『それ、逆効果になるから止めた方がいいぞ……』
「Oh come on……. I am asking very prettily, but you are so bitter」
『もうっ……ほんとレンってば辛辣よね、わたしがこんなに可愛く頼んでるのに』
ソフィアはわざとらしく頬を膨らませて拗ねたような顔をする。その仕草もやはり可愛かったが俺はそれをあえて無視した。
今のやり取りで分かるように俺は日本人ながら英語が出来る。
こうして流暢な英語を喋れる事が知れ渡り、ソフィアと他の生徒の日常的な会話の通訳を任される事になったのだ。
そんな俺達がこうして英語で話す様子はクラスで評判らしく、周囲の生徒達は「また夫婦漫才やってる、英語で何言ってんのか分かんないけど」と微笑ましい視線を向けている。
俺はその反応にむず痒さを感じつつも、さっき片付けたばかりの数学の教科書を取り出した。
『言っとくが俺も全部分かるわけじゃないからな。で、何を教えて欲しいんだ?』
『えっと、それじゃあまずはこの部分をお願い』
『ちょっと待て。これ基本中の基本じゃないか、まさかここから説明する必要があるわけか?』
『もちろん。あなたの《推し》がこうして困ってるんだから助けてくれるのは当然よね?』
『あのな、ソフィー。そりゃ推しを応援するのは当然だけど、これとそれとは話が別で』
『もう何言ってるの。わたしっていう魂の存在がいなきゃアリスは成り立たないの。もしテストで赤点取って補習になったらアリスの配信時間も減っちゃうのよ。そしたらあなたも含めて世界中の300万人が嘆き悲しむ事になるの、それでもいいの?』
『くっ……ソフィーの場合はそれが大げさじゃないから困るんだよなあ……。マジで300万人が泣く、それはアリスのチャンネル登録者である俺も保証する……』
『でしょ? これには重責が伴うの。わたしの秘密を知っている以上、レンには協力してもらわないとね』
ふふんっ、と得意気に鼻を鳴らすソフィア。それから自分の席を俺の席とくっつけると授業中に使っていたルーズリーフを取り出し、ニコニコとしながらこちらを見つめる。
こうして俺に笑顔を向けるソフィア・ワットソンには秘密があった。
その秘密を知っているのはこの学校でただ一人、俺だけだ。
どうして学園一の美少女の秘密を俺が知っているのか、その発端は留学してきたばかりのソフィアが、とある公園で迷子になっていたあの日まで遡る。
正直言ってあの日の事は、夢だったんじゃないかと思う程に鮮烈なものだった。
迷子になっていた美少女留学生を助けたら、そんな彼女が海外トップのVtuberで俺の推しだったなんて、今でも信じられない。
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