据え膳を完食してきた男
廊下に出ると団員達が手足を押さえて呻いて転がっていた。
その惨状にヒェッとなってるタンユに、リカルドは苦笑いをする。
「全員、峰うちなんで、安心してくださいよ。骨折とかはしてるかもしれないけど」
いつでも抜けるように腰の剣に手をかけながら先を進むリカルドに、タンユは恐る恐る声をかけた。
「お前、武器持つと謎の破壊の力が暴走するバーサーカーなんじゃないの?」
「なんすか、その設定!」
振り返ったリカルドが声を出して爆笑した。
廊下の突き当りにある部屋の前でリカルドは止まると、倉庫の名前を確かめる。そこは武器庫だった。
「おい、こんな奥に来て、行き止まりじゃねぇか。どうやって脱出するんだよ」
「まぁ、ちょっとプランあるんで、大丈夫ですよ」
リカルドが扉を触って位置と角度、素材などを確かめていると背後から声がした。
「誰かと思えば、リカルド君じゃないか。元気していたかい?」
振り向くとヤキムがいた。タンユは二人が知り合いだったことに驚くと、双方の顔を交互に見た。
「せっかくお前のようなゴミを拾ってやったのに、
「え? 何? お前、俺以上にめっちゃ嫌われてんじゃん。何したの?」
小声でリカルドに話しかける。
「協会の受付のお姉さんの一人、あの人の彼女だったんで」
リカルドも小声でタンユに説明した。
「あ~」
納得する声をタンユはあげた。
「えっとぉ! 受付のお姉さんとは別れたんで、いまあの人フリーっすよ!」
リカルドが大声でヤキムに呼びかけると、彼は「ふざけるな」と絶叫しながら剣を抜いて襲い掛かってきた。
それを受けて間髪入れずに、腰の剣に手をかけて、足元を固定するように腰を落として構えのポーズをとったリカルドを見て、タンユは慌てて頭を保護してしゃがみ込んだ。
抜刀と同時に、放たれたリカルドの例の謎の破壊の力は、ヤキムの頭の斜め上をかすめると、武器庫の扉の上部を吹っ飛ばして、そのままビルの外壁と屋上まで突き破る。
「ああ、危なかった。あのままあそこにいられたら、怪我させちゃってたんで、向かってきてくれて助かりましたよ! ヤキムさん!」
普段通りの能天気な調子で語り掛けるリカルドに対して、茫然自失状態のヤキムは、何が起きたのかわからないといった様子で夜空が見えるようになった壁と天井を見上げている。
しゃがみ込んでいたタンユは、思いのほか瓦礫など落ちてこなかったことを確認すると、恐る恐る立ち上がった。リカルドに、やるなら先に言えと文句を言おうとしたが、その前にヤキムが目に入ってしまった。
「ちょ! おま!」
指を指して、ゲラゲラ笑い始める。
ヤキムの頭髪は、衝撃波がかすめた片方だけなくなっていたのだった。
バラバラ バラバラ
プロペラの音が聞こえてくる。空を見上げると、ドン・リリが経営するテレビ会社の報道ヘリコプターだった。救急車や消防車、パトカーのサイレンも聞こえてくる。
「お前、もしかして脱出プランってこれか?」
「ウッス!」
いつも通りのリカルドと、そんな彼のスケールにあきれ果てたタンユは、とりあえず救出されるのを待つべく、衝撃波で上空の雲までも吹き飛ばしたのか、やたら満天の夜空を眺めた。
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