6 入学!
「おー、凄い」
クソ親父は事務能力だけは優秀だったらしく、姉様への面会手続きと私の入学手続きを同時進行させたというのに、脅してから二ヶ月もしない内に私を学園に入学させる準備を整えて見せた。
その時期が丁度、新入生が入学する新年度の始まりだったからね。
つまり、4月の桜舞い散る季節。
そこに間に合うように急いだんだと思う。
編入より普通に入学させる方が楽だろうから。
それでも、クソ親父はここ最近の激務で大幅にやつれたけどね。
いい気味である。
ちなみに、この世界の暦とかは地球と同じで、季節とかは日本と同じだ。
全体的に中世ヨーロッパっぽい、いかにもなファンタジー世界のくせして桜とか普通にある。
上の方の貴族しか使えない高級品とはいえ、写真もあったしね。
さすが、ゲームの世界。
色々と適当。
で、私は今、新品の制服に身を包み、お付きのメイド達に囲まれながら馬車に乗って、学園が目に見える位置にまで来ていた。
まるでホグ◯ーツのような、城と見まごうような巨大な建物だ。
金かかってそー。
尚、本物の城は学園の数十倍デカイもよう。
城っていうか、もはや要塞である。
帝都のどこからでも見えるくらいデカイし。
あの城はゲームのラストバトルの舞台でもあり、姉様が囚われている後宮はあの城の敷地内にある。
つまり、私の最終目的地でもあるって事だ。
それが目に見える所までは来た。
あとは手を伸ばせば届く距離まで行き、姉様をこの手でガッチリホールドして連れ去るだけだ。
気張って行くぞー!
でも、今は学園の話をしよう。
あのホグ◯ーツみたいな貴族学園は、基本的に10歳から15歳までの貴族が通って色々と勉強する、のはついでで、実際は将来の為の人脈作りをする為の場所だ。
皇族とか公爵とかの偉い連中が派閥作って優秀な人材を今から囲い込んでるらしい。
これはゲーム知識ではなく、学園の先輩でもある姉様から聞いた。
ていうか、ゲームには貴族学園なんて出てこないし。
特定のキャラの回想で、それっぽい場所がチラッと出てくる程度だよ。
そのチラッと出てきた回想で学園っぽい場所にいた事が判明してる人物が私のターゲットだ。
この国に上位の貴族や皇族が通う学園なんて一つしかないので、回想の場所がこの学園だという事はほぼ確定。
そいつの年齢から逆算すると、今はまだ学園を卒業していない筈。
なんとしてでも奴に取り入り、側近になって城へのフリーパスを手に入れるのだ!
いざとなったら色仕掛けも辞さない!
ズッコンバッコンオーイエスな関係になる事も辞さない!
まあ、いくら私が姉様に多少は似て多少は可愛いとは言え、10歳の幼女の色仕掛けに引っ掛かるような奴じゃないと思うけどさ。
もしそうだったら、私の抱いてるそいつへのイメージが音を立てて崩壊するよ。
……色仕掛けの効果は、あんまり期待しないでおこう。
「セレナ様、到着いたしました」
「ご苦労様」
そんな事を考えてる内に、馬車は学園へと到着した。
御者を務めていた執事のビリーさんが扉を開けてくれる。
私はその扉を潜り、お付きのメイド達と共に馬車の外へ出た。
「それじゃあ、ビリーさん。お父様に
「はい、畏まりました」
私の言葉の意味をちゃんと理解してくれたらしく、ビリーさんは感謝するように深々とお辞儀をして私を見送った。
そう。
私は使用人の人達に感謝されるような事をしている。
使用人達を守っていた姉様がいなくなって、我が家が前みたいな、拷問大好き、レ◯プ最高、命の保証が全くないアットホームな地獄の職場に戻りかけたのを救ったからだ。
やった事と言えば、クソ親父のお腹を見ながら「くれぐれも姉様の意向に背くような事すんじゃねぇぞ」と脅しただけだけどね。
お腹に爆弾を抱えているクソ親父には効果絶大だった。
必死で他の家族どもを止めてくれましたとも。
私も秘密基地の調整の為に週一の休みには転移陣で領地に戻るつもりだし、私の目があれば下手な事はできないでしょ。
やっぱり、妹として、エミリア教の敬虔な信者として、姉様が救おうとした人達はできるだけ救わないとね。
優先順位としては勿論姉様本人の方が遥かに上だけど、片手間で救えるなら救わない理由がないよ。
そんな訳で、使用人達の殆どは私と姉様に感謝している。
それは、私のお付きとして選んだこの三人のメイドも同じだ。
「わー! 正面から見るともっと凄いですね、このお城!」
「ですね~」
「こら二人とも! セレナ様のメイドとして恥じない行動を心掛けなさい!」
そのメイド達、アン、ドゥ、トロワの三人が思い思いの反応をした後、荷物を持ちながら私の後ろに並んで、さも私達は優秀なメイドですよとでも言わんばかりのすまし顔になった。
ちょっと笑える。
この三人は元々、姉様のメイドだった人達だ。
私とも昔からの付き合いがある。
そして、三人ともそこそこ美人なのでクソ親父の毒牙にかかり、更に拷問好きのクソ兄の一人の毒牙にかかり、そこを我らが姉様に颯爽と救われた過去があるのだ。
今では私と同じエミリア教の敬虔な信者である。
普通に信頼できるっていうのと、屋敷に残しておいたらこっそりクソ家族どもに食べられちゃいそうだからって理由で、私のお付きとして学園に連れて来た。
姉様を救出して国を脱出する時には、この三人も一緒に連れて行くつもりだ。
ちなみに、このアン、ドゥ、トロワという名前は、日本だと太郎、次郎、三郎くらいに安直な名前なんだけど、これにも訳がある。
三人は親に物扱いされて売られた口なので、親には名前すら付けてもらえなかったらしいのだ。
でも、貴族に虐げられて余裕のない平民の間では、そういう悲劇なんてよくある話らしい。
で、巡り巡って姉様に助けられた時に名前を聞かれ、そんなものはないですと答えると、それに驚愕した姉様が「じゃあ、私が名前を付けてあげる!」と言って名付けてくれたんだそうだ。
ただ、姉様にはネーミングセンスというものがなかったらしく、30分くらいウンウンと頭を悩ませた挙げ句に出てきたのが、このアン、ドゥ、トロワという安直な名前だったと。
そんな姉様もポンコツ可愛い。
普段完璧な人がたまに見せるポンコツっぷりって萌えるよね!
それは三人も同意見だったらしく、その時の様子をウットリと語っていた。
地獄から救ってくれた感謝に加え、名前を貰えた喜びと、自分の名前を考える為に悩んでくれた姉様の尊さと、姉様のポンコツ可愛い姿のクワトロコンボで姉様に惚れ込み、絶対の忠誠を誓ったとの事だ。
その話を聞いた時の私は感動で泣いた。
それ以来、私はこの三人を信頼できる同志として見てる。
深く付き合ってみれば、安直な名前でもそれぞれに個性があって、おもしろい人達だ。
アンはちょっとだけおバカな元気娘。
ドゥはぽわぽわとしてる、ゆるふわ系。
トロワはしっかりとしてる、お姉さんキャラ。
皆違って皆いい、頼れる仲間達だ。
まあ、国外脱出計画については、アン辺りがうっかり口を滑らせそうだから、まだ言ってないけどね。
そんな仲間達と共に、いざ行かん!
学園という名の戦場へ!
「さて。じゃあ行くよ、三人とも。まずは学生寮に荷物を置きに行こう」
「「「畏まりました、セレナ様」」」
少しでも姉様の役に立てるようにと特訓したらしい綺麗な所作で一礼し、メイドスリーは私に続いて歩き出す。
私達の戦いはこれからだ!
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