第38話
向かい合う刃と兵。
神威は離れた位置に身を潜め、兵を援護する様子も無ければ、刃に攻撃をしようという様子でも無い。やがて兵が発砲するが、刃はその一撃を回避した。その瞬間、神威が動いた。
隠れていたドラム缶の影から飛び出し、刃に向けて銃を撃つ。
「止せっ!!」
コウは叫ぶ。あんな卑怯な勝ち方をして何になる!?
そう怒鳴りつけようとした。だけどそれよりも早く。
神威が放った弾丸が、刃の身体全体を撃ち抜いた。
刃の全身が白い光の粒に変わって消える。
コウは歯ぎしりした。これで奴は……25のポイントを手にした事になる。
だが……
その二人に向かって、背後から誰かが迫る。佳子だ。
兵と刃が向き合う隙に何処かに身を隠していたのだろう、そのまま物陰に隠れながら、二人に近づいて行く。コウは二人に警告しようとした。だが……
「おっと」
声がする。
コウはぎょっとして声がした方を見る。それは今は真っ暗になっているゲームの筐体に取り付けられたディスプレイからだった、あの『死神』が画面に映っている。
「アドバイスは禁止だぞ。コウ」
「……っ」
コウは鼻白む。
「あくまでも『大会』は公平に進めねばならないからね」
「……でも、このままじゃ二人は……」
コウは他のメンバーに聞こえないように小声で言う。
「そうだとしても、彼らに余計な発言をする事は禁じる。声をかければ君を『失格』と見なすしかなくなるぞ?」
かた、かた、と『死神』が上下の歯を打ち鳴らして言う。コウはぎり、と歯ぎしりした。
そのまま目を閉じた。
腕を組み、ゆっくりと背中を椅子のシートにあずける。
「……頑張ってくれ、みんな」
コウは、それだけを同じ部屋にいる三人に向かって言う。この程度ならば『試合』の進行を妨げるアドバイスにもならないだろうから問題は無いだろう。そう聞こうとディスプレイに顔を向けたが、その時もう既に『死神』は消えていた。
迫って来る佳子が、銃を向けたのは兵に対してだ。
兵はそれに気づいたのか、すぐに銃を構えて反撃の体制を取る。だけどそれよりも早く、佳子が物陰に隠れる、銃弾が佳子が隠れている脇を通り過ぎていく。兵は銃を構えたまま、油断なく正面を向いていた。コウは黙って画面を見る。神威の姿は無い、どうせ既に他の敵を倒しに行ったのだろう、そういえばもう一人のメンバー、紅は何処にいるのだろう?
コウは画面を見る。相手チームのもう一人、朧は何処に行った?
離れた場所で、たたたたたたたたたっ!! と銃が発砲される音が響く。
その音がした方を見た、白い光の粒になって消えたのは……
「……朧」
コウは呟く。
つまりは紅が勝った、という事だろう。後は……
コウは黙って佳子と兵の方に目をやった。
神威は、既に朧が倒された事を知っているのだろう、隠れながら佳子に向かって近づいて行くのが見えた。コウは歯ぎしりする。こいつは……何処までも人を……
コウは怒鳴りつけたいのを必死になって堪えた、そうしている間に、試合が動く。
佳子がばっ、と走り出すと、兵に突進していく。もともと我慢するのが苦手なタイプなのか、それとも何か……兵に執着する訳があるのだろうか? そういえば彼女は……
コウは、ロビーでやりとりした佳子の顔を思い浮かべる、あの金髪の少女、兵と対決出来る事を喜んでいたように見えていた、もしかしたら兵、つまりは佐紀と、あの少女は知り合いなのだろうか?
まあそれは後ほど佐紀に聞けば良い事だ。コウは思いながら黙って画面を見た。
そして……
兵が隠れているであろう場所に、佳子が走り寄る。その瞬間に兵が飛び出す。
銃声が轟く。
佳子の身体が、放たれた銃弾に撃ち抜かれる。
コウはそれを見て……
ゆっくりと、息を吐いた。
それを合図としたように、ホイッスルに似た音が響く。
そして画面に、各人の得たポイントが表示される。
『兵=10ポイント』
『神威=5ポイント』
『佳子=5ポイント』
『紅=5ポイント』
やがてポイントの表示が消え、画面に再び『死神』が映った。
「これにて」
『死神』の声がする。
「第一試合、全ての試合が終了した」
それと同時に、ちゃりん、と音がする。コウが見ると、さっき入れた銀色のコインが投入口の下のボックスの中に落ちてきていた。手を伸ばしてコインを手に取り、再びディスプレイを見るが、そこには既に誰も映っていない。
「結果を発表する、まずは全員筐体から離れ、正面の画面を見てくれ」
『死神』の声に、コウはゆっくりとシートから立ち上がった。
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