第86話 ゴブリンとの戦闘


「それでは洞窟の入り口を頼む」


「おう。そっちも気をつけてな」


「相手はゴブリンとはいえお気をつけください」


 ポーラさんとイレイさんはゴブリンの巣穴の前で外に出ていたゴブリンが帰ってきた場合の対応をする。2人でも先程の10匹程度のゴブリンなら問題ないようだ。


 何かイレギュラーがあった場合には、大声で巣穴の中にいる俺達へと大声で知らせて馬車まで逃げる算段だ。相手がゴブリンであっても、決して舐めたりはしない。この世界には回復魔法は男である治療士にしか使えないため、一瞬の油断で簡単に命を落とすことを、全員が俺以上に理解している。




「……ストップだ」


 先頭を進むエルミーが待てを掛ける。どうやら洞窟の先にゴブリンがいるようだ。ゴブリン達の巣穴は自然にできていた洞穴を利用しているようでかなり広い。小さなかがり火を手に先へと進んでいく。


 エルミーが巣穴の入り口にいた見張りのゴブリン達を一瞬で倒してくれたため、ゴブリン達はまだ俺達が侵入してきたことに気付いていない。


「この先は開けた広間となっているようだ。火を消して近付き、一気に制圧しよう。通路に罠が仕掛けている可能性もあるから気を付けて進もう」


 ゴブリンと言えば、雑魚キャラで知能の低い魔物というイメージが強いが、この世界のゴブリンは罠を仕掛けるくらいの知能はあるらしい。罠に気を付けながら慎重に先へ進む。


「ゲギャギャギャ」


「ギャギャ」


 奥からはゴブリン達の声が聞こえてくる。どうやら結構な数のゴブリンがいるようだ。それに伴って悪臭が立ち込める。ゴブリン達はよくこの悪臭の中で生活しているものだ。


「行くぞ!」


「ああ、男性の敵を殲滅するとしよう!」


 ザッ


 先頭にいるエルミーとティアさんが一気に広間へと踏み込む。


「ゲギャギャ!?」


「ゲギャッ!」


 ゴブリン達もようやく俺達の侵入に気付いたようだが、その間に素早い動きで次々にゴブリンを倒していく。


「せいやあああ!」


 ティアさんがその大きな斧を振るうと一撃でゴブリン数体の身体が真っ二つになる。俺ではまともに持つことすらできない巨大な斧を軽々と振るって次々とゴブリンを屠っていく。


「甘いぜ!」


 バチンッ


「ゲギャ!?」


 突如放たれた大きな氷の礫がエルミーとティアさんを襲おうとするが、フェリスの大きな盾によって阻まれる。


「ゴブリンメイジがいるぞ! フロラ、ルネス、頼む!」

 

「任せて! ウインドカッター!」


「お任せください! アイシクルバレッド!」


「ギャギャ!」


 ゴブリンの中にはゴブリンメイジと呼ばれる魔法を使える特殊個体がいる。魔法の威力は弓矢よりも脅威であるため、ゴブリンメイジがいた場合には優先して倒さなければならない。


 とはいえこちらにはゴブリンメイジよりも遥かに強い魔法を使えるフロラとルネスさんがいる。フロラの風魔法によりゴブリンメイジ達は切り裂かれ、ルネスさんの氷魔法によって撃ち抜かれた。


 俺も障壁魔法によって援護をしようとするが、みんなの動きが速すぎて援護をする暇がない。むしろ邪魔になってしまいそうだ。みんなはゴブリンの攻撃を一撃たりとも受けないので、回復魔法も必要ない。やはり治療士がほとんどいないこの世界では一撃でも致命傷となるため、攻撃を受けないことを徹底しているからな。


「……よしあらかた片付いたようだな」


「少なくともこの広間にいるゴブリンはすべて殲滅できたみたいだね」


 戦闘を始めてから5分も経たずに戦闘が終了した。こちらは全員怪我ひとつ負うことはなかった。ジェロムさんは俺の周囲を警戒してくれながらも、ナイフの投擲によりゴブリンを倒していたが、結局俺は何ひとつ戦闘には役に立てなかった……


 広間には50体近くのゴブリンの死体が散乱している。その死体の有様は酷いものであったが、ゴブリン達には何ひとつ同情の余地はなかった。


「残念ですが、数日前に殺されておりますね……」


「そうか……こればかりは仕方のないことだ」


 そう、この広間にはゴブリン達だけでなく4人の女性もいた。しかし、遠目から見てもすでにこと切れていることが明らかであった。もしも近くで見ていたら、間違いなく俺は嘔吐していただろう。


「ゴブリンメイジも多くいたし、かなり大きな群れになっていた。これ以上大きな群れにならなかったのは不幸中の幸い」


「そうだな、フロラ。しかし、ここに男性の姿はない。これだけの群れということは間違いなく男性を攫って数を増やしたはずだ。おそらくこの奥にいるのだろう」


 ここにいたゴブリン達は普段この広間で生活していたようだ。食事をとるようなテーブルもあったし、それこそ俺達が奇襲を仕掛けたときに寝ているゴブリン達も多くいた。


「間違いなくこの奥にいるのだろうね。早くこの人達を別の場所に埋葬してあげたいところだけれど、今は囚われの男性を助け出すほうが先だよ!」


「ああ、早く先へ進もう」


 ティアさんのいう通り、この広間にはひとつだけ先へと続く道があった。これだけ戦闘をして気付いていないということはないだろうから、すでに攫った男性と一緒に逃げている可能性もある。急いで後を追わなければならない。

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