第77話 食事会
「……う〜ん、ジョナルド卿に関する新しい情報はなさそうかな」
「それにしてもよくたったの2日間でこれだけの本を調べ上げたものだな」
「まあパッと見で関係なさそうな本は除外しているからね。3人とも手伝ってくれてありがとうね」
エルミーの言う通り、この2日間でかなりの本に目を通した。さすがに目が疲れてきたよ。
デーヴァさんとの面会を終えたあと、またこの王城の図書室へとやってきて、今度は俺と同じ聖男であったと思われるジョナルド卿に関する書物がないかを調べた。
結果的にはジョナルド卿の記載があった書物はもうひとつあったが、最初に見つけた書物の情報以上のものはなかった。
どちらの書物にもジョナルド卿が伝記に載るほどの立派な人であることはよく分かったが、俺のように別の世界からやってきた人かはわからなかったな。今後機会があれば、ジョナルド卿のことについても調べてみるとしよう。
「とりあえず書物調べはこれで終わりかな。明日はゆっくりと王都で買い物をしたりして、明後日くらいには王都を出発しようか」
本当はジョナルド卿に関する書物以外にも翻訳したほうがいい書物もあるのだろうけど、そこまで俺がやってしまうのも、本職の翻訳者さんの仕事を奪ってしまうことになるからな。一応医療関係の本だけは別に分けておいたし、現在緊急を要する翻訳作業がないというのも確認している。
「おう! なんだかんだで数日いるだけの予定が、だいぶ伸びちまったもんな。まあそれはそれでいろいろと楽しかったけどよ」
「本当だよね。まあいろいろと役に立てたようだからよかったけどさ」
「ソーマのおかげで子供を洗脳する闇ギルドを潰せたし、デーヴァさんを助けることができた。ソーマはとっても良いことをした」
「それなら良かったよ。でも王都の宿での高級な料理もとっても美味しいんだけど、アニックの街が恋しくなってきちゃったよ」
国王様が用意してくれた高級な宿も居心地が良く、料理がとても美味しいのだが、高級ホテルに泊まっているようで、あんまり長く滞在しすぎるとそれに慣れてしまいそうで怖い。
それにホテルの従業員さんの格好がなかなか目に毒なんだよなあ……いや、目の保養といってもいいのだが、エルミー達やティアさんの手前上な……
「アニックの街で活動している私達にとってその言葉は嬉しくもあるな。明日は街にいるみんなに、王都のお土産をいろいろと買っていくことにしよう」
「うん、そうしよう!」
「国王様と食事かあ……テーブルマナーとか全然知らないんだけどなあ……」
「ソーマよりも俺達のほうが心配だぜ……」
「なにか失敗しちゃいそう……」
「み、みんな! 国王様もマナーなどは気にしないと言っていたではないか。あ、あまり緊張しすぎると余計に失敗してしまうぞ!」
書物庫を調べさせてもらったあと、今日は国王様に夕食へと招待されている。本音を言うと国王様と食事なんて息が詰まりそうだが、さすがに今後とも良い関係を続けていくためにも、一度くらいは招待を受けるべきだと考えたわけだ。
向こうもテーブルマナーなどは一切気にしないと言ってくれてくれてはいるが、それでも向こうはこの国で一番偉い人だ。何か粗相をしてしまうのではとちょっとだけ心配だ。
「そういうエルミーも落ち着いて。あと3人とも、その……スーツはとても似合っているよ」
そう、今回は正式な食事会なので、エルミー達も正装をしている。こっちの世界では女性の正装はスーツらしい……というよりもスカートやドレスみたいな服はあるにはあるが、子どもくらいしか着ないそうだ。
なんとなく残念ではあるが、むしろ普段の服の露出はこちらの世界のほうが多いからな。とはいえ、さすがに正装の露出までは多くないみたいだ。
「そ、そうか! ソーマもとても綺麗でよく似合っているぞ!」
「ああ、ソーマによく似合っているぜ!」
「ソーマ、とっても綺麗!」
「……ありがとう」
一方で俺の服装はこちらの世界での正装であるスーツだ。もちろん元の世界のスーツみたいな者ではなく、映画とか異世界ものでよく見る中世のスーツになる。それにしても、相変わらずこちらの世界での男性への褒め言葉にはあまり慣れないな。
「おお、ソーマ殿。本日は足を運んでもらってすまない。そちらの服装はとても似合っていて美しい。アニックの街では黒髪の天使と呼ばれているわけだ」
その呼ばれ方は王都にまで広がっているのか……
「お褒めいただき恐縮です。この度はお招きいただきましてありがとうございます」
「わ、我々までお招きいただきまして、感謝致します!」
「蒼き久遠のみなには王都で闇ギルドを潰す際に尽力してくれたと聞いている。3人にもとても感謝しておるぞ。ソーマ殿達が泊まっている宿の食事も立派なものだが、それに負けない料理を用意したつもりである。マナーなど気にせず、どうか楽しんでいってほしい」
「ご配慮感謝します。えっと……」
「おお、紹介がまだであったな。こちらは余の娘である第二王女のカロリーヌである」
「は、初めまして! カロリーヌと申します」
国王様の隣には王都に来て初めて見る女性がいた。どうやらこの国の王女様のようだ。
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