第29話 ポーション商店への挨拶
「初めまして、ソーマと申します。先日はポーションをお送りいただきまして、誠にありがとうございました」
「おお、あなた様が噂の黒髪の男神様ですね! わざわざ私どものお店に足を運んでいただきまして、誠にありがとうございます!」
次の日、無事に治療所での治療を終えて、先日ポーションをもらった商店に挨拶に来ている。商店の人に声をかけると、店の2階のものすごく立派な部屋に通された。
昨日の謎の現象を解明するために、回復魔法を使うことにより発光するポーションをお店に買いにやって来た。それと一緒に、別のポーションをくれたお店にも挨拶に来ている。
このお店はあの発光するポーションを売っていたお店ではないのだが、この街で一二を争うほど有名なポーションの販売店らしい。ポーションの売上も落ちているだろうし、一度はちゃんと挨拶をしておかないと駄目だと思っていた。もちろんエルミー達にも一緒に来てもらっている。
「とんでもないです。一介の治療士ですので、それほど畏まらないでください」
「いえいえ! お噂はかねがね聞いております。どんな者であろうとも拒まず、どんな傷でも一瞬で癒し、その治療費はたった金貨10枚。そのうえ自らを襲ってきた狼藉者に対しても慈悲の心を持つ、まさに男神様のようなお方と聞いております!」
「………………」
聞いていて頭が痛くなってきた……なに、今ってそんな噂が広がっているの?
「それで、この度は我がランコット商店にいかがな御用でしょうか?」
このお店の会頭は40代くらいの女性だ。商店の会頭ということもあって、冒険者ギルドにいた女冒険者と比べると多少華奢な印象である。身なりも良く、大きな宝石の付いた装飾品を身に付けている。
「えっと、先日ポーションをいただきましたお礼と、私が治療士として治療することで、ランコット商店様にご迷惑をかけてしまうこともあるかと思い、ご挨拶にきました」
「……なるほど、噂通りとても謙虚なお方のようですね。ポーションはソーマ様には不要かと存じますが、我が商店のポーションはそれなり効果があると自負しております。今後とも良いお付き合いをできればと思いお送りしました。
それにソーマ様がポーションでは治せない怪我のみを治療すると条件を付けてくださったので、それほどまでに大きな損害には至っておりません。何より、ソーマ様のおかげで、今まで治療することができなかった怪我人達を救えるほうが喜ばしいですよ!」
「そう言っていただけるとこちらも嬉しいです。こちらこそ今後ともよろしくお願いします!」
よかった。ポーションの売り上げが下がったことで、何か言われるかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。それにポーションの利益が落ちるよりも、怪我人を治せる方が喜ばしいとは嬉しいことを言ってくれる。
どうやらランコットさんは良い人みたいだな。右手を差し出してきたので、こちらも右手で握手をする。この世界でも握手の方法は変わらないようだ。
「あと追加でポーションと毒消しポーションを5個ずつ購入させてください」
しっかりと昨日の検証をするためのポーションも購入しておかないとな。今回はポーションだけではなく毒消しポーションの方も購入しておく。
「ええ、もちろんですとも。お代のほうは結構ですので、いくらでもお持ちください」
「いえ、お代のほうはきちんと払わせていただきますから」
ポーションの売り上げを下げた挙句、無料でポーションをもらうわけにはいかない。こういったものはキチンとした正当な対価が支払われるべきである。
ランコットさんはその後もポーション類を無料で譲ろうとしてくれたのだが、俺はそれを固辞した。最終的にはランコットさんが折れてお金を受け取ってくれた。今後ともいろいろお世話になるだろうし、良い関係を築けていけるといいんだけどな。
「ふう、とりあえず一軒目はどうにかなったか。まだ何軒も行かないと思うと少し気が重いな」
毎回あんな噂を耳にしたり、男神様だのソーマ様だの、歳上で元の世界の社長さんみたいな偉い人達に頭を下げられるのは、逆にこちらの胃の方が痛くなる……
「残りは5軒だな。多少は時間が掛かるから、もしかすると明日になるかもしれないぞ」
「まあ1日で回らなくちゃいけないわけでもないから。でもランコットさんは良い人そうでよかったよ。売り上げが下がっていても、怪我人が減る方が喜ばしいなんて、嬉しいことを言ってくれるよ」
「ソーマ、残念だけどあれは嘘……」
「ええ!? 嘘でしょ! あんなにいい笑顔だったよ!?」
いやいや嘘だろ!? あんなに優しい笑顔で怪我人が減ることを喜んでくれていたのに……
「まあ商人のトップなんて、腹の中で何を思っているか隠すことくらい朝飯前だろ。中にはもっとエグいことを考えているやつだっているぞ」
「ちなみに嘘だったのは、そこの部分と良い付き合いをしていきたいってところ」
「一番大事なところじゃん!」
え、何それ!? あんな良い笑顔で握手してくれたくせに、良い付き合いをしていく気ないんかい! やだなにそれ怖い……
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