第27話 王都からの返事


 この世界に来てから初めての休日を過ごした次の日。昨日はパンの改善もできて、パンを販売する準備もかなり整った。休みの日なのにいろいろと動いてはいたが、結局急患も来なかったし、のんびりと過ごすことができていい休日になったと思う。


 朝食をみんなで食べてから冒険者ギルドの隣にある治療所へと向かう。相変わらず治療所に到着すると、まだ患者さんや野次馬の人達は多い。


 昨日は休みということもあって、昨日治療できなかった患者さん達が来ている。そしてこの街の患者さんはもうほとんど治療し終えたのだが、治療士の噂を聞いた村の人達が遠くの場所からこの街まで来ていた。


 先週に比べたらだいぶ治療を必要とする人の数は減ったが、まだまだ遠くから治療を求めてやって来る人はそこそこいるらしい。




「ソーマ殿、お時間になりますので、今日の治療はここまでになります」


「はい、わかりました」


 今日の治療所での治療が無事に終わった。さすがに先週みたいにイチャモンをつけてくるような患者はいなかった。いくらなんでも、そう何度もちょっかいを出されてはたまらない。


 基本的に朝治療所に着いたら、治療者を7〜8人ごとにエリアヒールをかけて治療していく。一度治療が終わったら30分ほど休憩を挟んでまたエリアヒールで治療するのを繰り返していく。


 治療所に来ている患者全員の治療が終わったら、休憩室で新しく患者が来るのを待ち、患者がやってきたら個別にヒールを使って治療していくという流れだ。そしてそれを14〜15時くらいまで行い、その日の治療は終了となる。


 そのあとの時間は緊急の患者が来た時のみ、ギルドの職員さんがエルミー達のパーティハウスに連絡が入ってくることになっている。緊急の患者はやはり冒険者が多く、あと少し遅れてたら助からないような患者も何度か来た。


 幸いなことに今のところ手遅れになった患者さんはいないが、いつかは治療が間に合わない患者さんが来ることも覚悟しておいたほうがいいのだろうな。


「ソーマ殿、ギルドマスターがお呼びですので、一度お越しいただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。すぐに行きます」




「おお、ソーマ殿、今日も治療をありがとうございます。ソーマ殿のおかげで、多くの冒険者が復帰し、早くも以前より依頼が達成されて、多くの素材がここに持ち込まれるようになりましたよ。本当にありがとうございます」


「はい、それは本当によかったです」


「おっと、本題なのですが、王都から返事が返ってきました」


 ……いよいよ来たか。俺のジョブが男巫おとこみこということを、国のお偉いさんに伝えた返事が返ってきたようだ。大丈夫かな、まだ孤児院でのパンの販売が始まっていないのに、強制的に王都に連行されてそのまま強制労働とか、戦争に駆り出されるみたいなことなんてないよな……


「簡単に要約させていただきます。ひとつ、ソーマ殿を国の治療士として認める。ワシがソーマ殿の回復魔法を確認させてもらった時点で、ソーマ殿が治療士として証明されておりますからな。


 ひとつ、治療費について前例のない金額ではあるが、それがソーマ殿の意志であるならば、その金額を認める。治療費の金額については自由に変更してもよい。


 ひとつ、ソーマ殿が男巫おとこみこであることはまだ公表しないでほしい。いろいろと会って確認したいこともあるため、これから3ヶ月以内に一度王都に赴いてほしい。以上になりますな」


「……えっと、かなり俺に配慮されている感じなんですけれど、本当にいいんですか?」


「やはりソーマ殿が男巫おとこみこということもあって、相当な配慮がされているようです。冒険者ギルドにも最大限のサポートをするように伝えられております。ソーマ殿の護衛費も、以前からの分も含めて国が出してくれるようですな」


 おお、それはありがたい。Aランク冒険者の依頼料がいくら掛かるのかは分からないが、たぶん結構な金額が掛かっていただろう。


 治療費については何か言われるかと思っていたが、特に問題ないのか。同じ街にいる治療士に配慮があるかと思ったが、もしかしたら男巫おとこみこである俺のほうがその治療士よりも優先されているのかもしれない。


「王都に行くのは3ヶ月以内ならいつでもいいんですか?」


 てっきり即座に呼び出されるのかと思っていた。


「ソーマ殿のご都合に最大限合わせてくれるようですね。3ヶ月以内が難しい場合には一度連絡がほしいそうです。また、何か心配事や相談事がある場合には、大抵のことはなんとかするから、国まで相談してほしいとのことです」


 ……なんだかめちゃくちゃ優遇されているっぽい。すごいな、ジョブが治療士になっただけで一生安泰みたいだ。……だからこそ治療士のジョブを持った人が増長した態度になってしまう、という可能性も高いけど。


「わかりました。何かに困ったらすぐに相談させてもらいます。それと一度王都にも行ってみたいので、あと1〜2週間後に行きますとお伝えください」


「かしこまりました。そのように伝えておきます。王都までの道のりは馬車で4〜5日ほどかかります。護衛や馬車の手配なども必要となりますので、日程が決まり次第教えてください」


「わかりました」


 とりあえず国で無理やり働かされるということはなさそうか。男巫は国に相当大切にされているようだな。逆にこの国を出るなんて言ったら、とんでもないことになりそうでもある。少なくとも国の偉い人達がどんな人なのか分かるまで、そんなことは絶対に口にしないようにしておこう。

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