【書籍1巻5/17発売】男女の力と貞操が逆転した異世界で、誰もが俺を求めてくる件〈WEB版〉【完結】

タジリユウ@カクヨムコン8・9特別賞

第1話 男の胸なんてどうでもいい!


「……どこだよここは?」


 ふと気がつくとそこには一面の草原が広がっていた。遠くのほうには大きな山や森が見える。すぐそこに人が踏み鳴らしてできた道のようなものがあったが、道路や街などといったものは視界上にはなかった。


 どうして俺はこんな場所にいるんだ? ボーッとする頭を働かせて、最後の記憶を辿ってみる。


「あれ、もしかして俺死んじまったんじゃね?」


 俺の頭に残っている最後の記憶、それは高校からの帰り道で、信号が青に変わった交差点を歩いている時に、いきなり猛スピードで突っ込んできたトラックだった。


「あるいは集中治療室で夢の中か……でも夢の中ではなさそうだ」


 太陽の温かさ、地面の土の感触、頬に当たる風、そのどれもが夢の中であることを否定していた。


 ということはやはり俺はあの時に死んでしまったのだろうか。人は死ぬとこんな場所に放り出されるのかよ。誰も死んだ後のことなんてどうなるか分からないもんな。


「ワイシャツに制服のズボンにスポーツシューズ。学校から帰ってくる時のままだな。持ち物は何もなし、ポケットに入れていたスマホもサイフもなしか」


 冷静に現状を把握してみたが、これからどうしよう。とりあえずここにある道に沿って進んでみるか。もしかしたら三途の川か何かがあるかもしれない。




 道に沿って歩くこと1時間、やはり人工物は何も見えてこない。そして徐々に木々が増えて森に近付いてきた。……しまったな、道を反対に進むべきだったか。


 ガサッ


「っ!?」


 横の草むらから物音がした。何かいる!?


「……スライム?」


 草むらからゆっくりと現れてきたのは全身水色をしたゼリー状の生物だった。そしてその中心には赤い目、もしくは核のようなものが存在している。それはよくゲームや漫画で見るスライムの姿だった。


「マジかよ……ひょっとしてここは異世界なのか?」


 俺もいわゆる異世界ものと呼ばれる小説や漫画は読んだことがある。もしかしてトラックに轢かれて死んで異世界に転生してきたのか!?


 無茶苦茶な考えであることは自分でも分かっているが、目の前に存在するファンタジーな生物を実際に見てしまうとそう考えるしかない。


 どうしよう、30cmくらいの可愛らしい生物なのだが、この世界では危険な生物の可能性もある。ここは逃げてとにかく人を探そう!


 ピョンッ


「のわっ!?」


 踵を返して逃げ出そうと思った瞬間にいきなりスライムが飛びついてきた。ゼリー状の身体の癖して想像の3倍は速く動いてきた。


 ジュワッ


「おわ、服が溶けた!? ヤバい、俺も溶かされ……あれ、痛くも何ともない」


 飛びついてきたスライムが俺のワイシャツにへばりついてきたかと思ったら、いきなり俺のワイシャツが溶け始めた。しかし肝心の俺の身体自体にはまったく害がなく、ヒンヤリプルプルしてむしろ気持ちいいくらいまである。


「うわ、初めての感覚だな。大丈夫だよな、あとで腫れたりしないよな……」


 プルプルとした触感のスライムを両手で引き離して、遠くまで放り捨てる。今のところはスライムを触った両手にも異常はない。ただ服に関してはワイシャツが右肩からお腹のあたりまで綺麗に溶かされてしまっていた。


 しかし上半身だけだったのは幸いだな。あのまま下半身まで溶かされてしまっていたら、いろいろとアウトだった。ここが異世界なのかは分からないが、もしかしたら猥褻物陳列罪がこの世界にもあるかもしれないし、街や村に入れてもらえない可能性もある。


 ガサガサッ


「なんだよまたスライムか……よ?」


 どうやらさっきのスライムがまた戻ってきたようだ。しかし、3。分裂したのか仲間を呼んだのかはわからないが、とにかくまずい。今度のやつは皮膚まで溶かすかもしれないし、下半身も溶かされたら事案が発生してしまう。


 早く逃げないと! しかし相変わらず思ったよりも素早い動きで、3匹のスライムが一気に俺に迫ってきた。


「危ねえ!」


 突如スライムと俺の間に何者かが割り込んできた。その者は大きな盾を持ち、3匹のスライムの突進を防いだ。


「はっ!」


 そしてその大きな盾の横から長く美しい金髪のポニーテールをなびかせながらもう1人の人影が現れた。長いロングソードを見えない速度で振り下ろしたと思ったら、3匹のスライムの赤い核のようなものがすべて割れてゼリー状だったスライムは液体になって地面に消えていった。


「大丈夫か! 怪我はないか!」


 金髪ポニーテールの女性はスライムを切ったロングソードを腰の鞘に収めながらこちらに振り向く。彼女は若く、俺と同じか少し年上くらいで整った顔立ちをしている。美しい金髪碧眼の彼女はどうみても日本人ではない。それにもかかわらず、彼女の言葉がはっきりと理解できている。やはりここは異世界なのだろうか?


「はい、おかげさまで助かり……」


「お、おい!? 服が溶かされているじゃないか! は、早く隠すんだ!」


「えっ……」


 ああ、最初スライムにワイシャツが溶かされてしまっていたんだっけな。だけどズボンは無事だったから問題ないだろう。


「さっきのスライムに溶かされてしまったみたいですね。上だけなんで大丈夫ですよ」


「な、何を言っている! うら若き男が上半身を露出すものではない! は、早く隠すんだ!」


 ……いやうら若き男って何だよ。あれかな、彼女達は男の素肌も見たこともないような箱入り娘だったりするのかな。


「とはいえ替えの服なんてありませんし……」


「そ、そうなのか。私達も簡単な依頼を達成したばかりで着替えなんて持っていないしな……。おいおまえら、彼を見るな!」


 いつの間にか先程の大きな盾を持っていた女性の他にもひとり女性が集まってきており、顔を赤くしながら俺を見ていた。彼女の一声で2人とも後ろを向いたけれど、別に男の上半身姿なんて見ても楽しくないだろうに。


「そうだ、ちょっと待っていてくれ」


 そういうとなぜか彼女は自分の上半身の防具を外し始めた。その下は白い無地のTシャツを着ている。少し汗で湿っており、この世界にはブラというものがないのか、彼女の2つの胸の先にある突起までハッキリと分かってしまった。


 おっと、いかんいかん! 助けてくれた恩人を卑猥な目で見るなんて失礼なことをしてしまった。それより彼女は何をしようとしているのだろうか? そうか、彼女の防具を貸してくれるのかな。


「よし!」


「え、ちょ、ちょっと、何をしているんですか!?」


 防具を地面に置いて何をするのかと思っていると、彼女は身に着けていたTシャツをいきなり脱ぎ始めた。


「ほら、これを着るといい」


「いやいやいや、何を言っているんですか!? 早く服を着てください」


 そして脱いだ服をそのまま俺に手渡そうとしてくる。しかもその大きくて立派な美しい胸をまったく隠そうともせずに服を差し出してくるのだ。


「そ、そちらこそ何を言っている! は、早く君の胸を隠すんだ!」


 なんで!? 会話がまったく噛み合っていない!


「俺のことは大丈夫ですから胸を隠してください!」


「何を言っている! 女である私の胸などどうでもいいだろう!? 男の君の方が優先だ。私は上からこの防具を着るから大丈夫だ」


 それこそ俺の胸の方がどうでもいいわ! い、いかん、童貞男子高校生の俺に先程の光景は刺激的すぎる!


 落ち着け! 恩人をいやらしい目で見るのは俺の良心が痛む。こういう時は逆のことを考えろ! そう、男の上腕二頭筋がひとつ、男の広背筋がひとつ、男の大胸筋がひとつ……よし、落ち着いてきた。ってどんな落ち着き方だよ!


「わかりました! ありがたく服を貸してもらいますから、あなたも早く防具を身に着けてください!」


 ひとりでアホなノリツッコミをして少しだけ落ち着いた。とりあえずどちらも譲らないことは分かったから、まずはお互いに胸を隠すことを優先しよう。


「ああ、わかった」


 彼女が差し出したTシャツをできるだけ彼女の胸を見ないように受け取ってすぐに着る。まだ彼女の汗の匂いや温もりが残っておりドキドキしてしまった。



―――――――――――――――――――――

第8回カクヨムWeb小説コンテストで特別賞を受賞した当作品が5/17に『ファンタジア文庫様』より発売されました!


WEB版とは内容が大幅に異なっておりますのでご注意ください。

また、WEB版は昔に書いたこともあって、未熟な部分も多いのでご容赦ください。


特設ページの下にある【試し読み】よりキャライラストやカラーのイラストが見られるので、ぜひご覧になってください(๑˃̵ᴗ˂̵)

https://kakuyomu.jp/users/iwasetaku0613/news/16818093076510627433

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る