039.どこいくの?
私は今日もユウ君の家に行く。最近は、本当に楽しい毎日を送れているなと自覚している。そのおかげか、擬態の持続時間が長くなっていた。
それも全部、ユウ君のおかげだな。
今日はどんよりとした曇り空。白いのか、灰色なのかはっきりとしない空模様。
私は今日もこのドアを開けて、ユウ君に会うんだ。そして、また新しい人間としての階段を登っていく。
「お邪魔しまーす!」
私は元気よく家に入った。そうすると、奥の居間で着替えていたユウ君が視界に入った。
「おっ、今日も来たんだね」
それだけ言って、またユウ君は黙々と着替えを進めていく。今日はいつにも増してさらに地味な格好になっていた。本当に、人間というのは趣味が分からない。
上下真っ黒な格好になっていた。いつも来ている服だけど、合わせ方だけで、ガラッと印象が変わる。
「どうしたの?今日はまた一段と地味だね。
どこいくの?」
部屋の中も暗かった。陽の光が無いと、こんなにも景色が違うんだなと思った。まるで、世界から色が抜き取られたような、そんな感じだ。
「今日はお盆だからね。お墓参りだよ。地味な格好で行くんだ。
今日は黒しか着てはいけないんだ。マイルールだよ」
着替えが終わったユウ君は微笑んだ。なんとなくいつもに比べて表情が硬いなと思った。
「よければ、アオもついてきて。お墓参りに行こう」
お墓参り?たしか、お墓って死んだ人が眠っているところのことだったな。
「うん、行きたい!」
私は応えた。ユウはまた微笑んで、玄関の方にやってきた。
「それじゃあ、行こうか」
ユウ君は玄関を出た。私も後ろからユウ君についていく。
スーパーに寄ってユウ君は花を買っていた。すごい!私、花を初めて見た!きれいー!色とりどりで、繊細で、仄かな匂いもいい。なんてきれいなんだろ!!
私は笑った。ユウ君にもこの感動が伝わって欲しい!!
私はユウ君の方を見た。ユウ君も私を見て微笑む。
でも、やっぱりなんだろう。どこか、いつもと違う。
心から笑っていない感じがする。
私たちはバスで移動することになった。もうこの時の私の心はウッキウキだった!
だって、バスだよ!動くよ!初めて乗るよ!!エンジンの音。地鳴るような揺れ。中から見た外の景色!そして道路!そこを走る色とりどりの車たち!全てが新鮮だった。
そして、とてつもなく高いコンクリートの塊みたいな建物が沢山建っている。私にとっては、今日の景色は初めてが多い!!
私はただひたすらに色んなものを観察しては感動していた。しかし、バスの中で騒いではいけない。ほどほどにしながら楽しんでいた。
ユウ君にも伝えたい!私のこの感動を!
「ユウ君!!……??」
私の口は喋るのをやめた。
ユウ君は外を眺めていた。その瞳はどこか寂しげな感じがした。これで確信した。やっぱり、いつもと何かが違う。なんだろう??私変なことしたかな?
私は窓から、何もない、べっとりと空を覆う白い雲を見上げた。
こんな曇り空見て、何が楽しいのかな?
何を見てるの?ユウ君……。
目的地に近いバス停に着いた。私たちはそこで降りた。私は再び感動に包まれる。
そう!山が広がっていたのだ。すごい!どこを見渡しても、深緑の山ばかり!高い!!自然ってすごい!!
所々にはゴツゴツとした岩肌も姿を現していた。まさにビックアンドビック!!!
初めて見る生き物たち。山には沢山の生き物がいるんだなー!
私は肺の中を空気いっぱいにする。
これは土の匂いかな??あまり嗅いだことのない、不思議なにおいがする!
楽しい!!
「ねぇ、ユウ君!私、山初めてきた!」
「あぁ、そうだね。どう?山は」
「最高!緑を見るだけで高揚するし、そこにいる生き物も、この匂いも新鮮!なんか、大きな山を見ると、とても壮大だねー!海とはまた違う魅力を感じるよ!」
「あはは、楽しそうで良かった」
ユウ君は笑っていた。でも、今日は私と目が合っていない気がする。どうしたんだろ?ただひたすらに、どこかへ向かいながら一歩ずつ歩いて行く。
少し歩くと、人工物がたくさん建てられた場所にやってきた。岩がきれいに加工され、それが積み上げられたようなものが無数に広がっている。
高さは私の腰くらいで、小さい。だが、なぜかとてもきれいに掃除されていた。
私たちは岩の加工物の周りに張り巡らされた道を歩いて行く。
一つ一つに文字が書かれている岩。これはいったいなんなのだろうか?
「ユウ君、これってなんなの?」
「あぁ、これがお墓だよ。この下に、死んだ人たちが眠ってるんだ」
ええっ!?この下に眠ってるの?すごい、人間はそうやって死者を弔ってるんだ。
今日は暑くない。むしろ、肌寒さを感じる。なぜか、気配がどこかから伝わってくる感じがする。
「ここだよ」
歩いて行った先にあったのは、周りと何も変わらない、お墓。花が供えられていた。まだ新しい。
「あー。お母さんたち来てたのか」
ユウ君はその場にしゃがみ込んだ。そして、持ってきた花を供えるとその墓を黙って眺めていた。
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