第20話 逃走の戦士

六問の攻撃を受けたブラックナイト・ダークエンジェルだったが、何もなかったかの様に上空を浮かびながら戦闘体勢に入る。


「その程度の攻撃、私には効きません」


「まさか破壊エネルギーに耐えるなんてな。だが次も容赦はしない」


英雄の拳は強く握られ、黒騎士に向かってものすごい勢いで高く飛び上がる。


(体がまだ馴染んでいない以上、ここで慣らしてしまいましょう。付き合ってもらいますよ。現世の英雄さん)


自分の力を過信しながら剣を横に振るうと、次元の裂け目が振るった箇所から現れ、大量の光の刃がオリジンザーガに襲い掛かる。

だが放出されている破壊エネルギーが打ち消し、すぐに距離を詰められた。


拳が唸る瞬間黒騎士は盾で攻撃を防ぎ、その反動はデカくオリジンザーガは一旦地面に着地する。

破壊エネルギーを大量に浴びた盾は灰と化すも、鼻で笑い再び盾を召喚する。


「なるほど。さすがは最初のザーガです。ですが、その姿がいつまで保ちますか?」


「ふん、その前に終わらせる」


地と天で睨みを効かせる。

まさにへびに睨まれたかえる

この言技はカエルが怯えている様子を表している訳ではない。

ヘビは食べるタイミングを、カエルは逃げるタイミングを伺う状態を指している。

つまり今のオリジンザーガとブラックナイト・ダークエンジェルの場合、どのタイミングで攻撃を開始するか見計らっているのだ。


そんな時だった。

幕昰が堕天使に向かってマグナムを発砲、道を開けろと言わんばかりに突き進む。


「六問、やっぱりそうだ。あいつこそが、本物の」


彼の前にいるのは本物の六問、再会を喜びながらも今の現状を認識し、そこで立ち止まる。

するとヒサが「幕昰さん! ここは危険です!」と声を掛け、ローカスト・ダークエンジェルを蹴り飛ばす。

相棒の方へ駆け寄ると、その顔は怒りの物だった。


「幕昰………さん?」


「馴れ馴れしくその名前を呼ぶんじゃねぇ。この偽者が。よくもだましてくれたな」


マグナムの銃口を向けられ、動揺を隠せないザーガ。

今まで共に戦ってきた相棒に自分の事を否定される。

オリジンザーガの姿を見た幕昰にとって本物はオリジンザーガなのは明白。

そんなことはヒサが六問の話を聞いてから分かっていたはず………はずなのに、唐突の事で複眼から涙が流れ出す。


「じゃあ………じゃあ俺はなんなんですか! 本物にも成れず、1人の人間にも成れない! どうして! どうして俺の事を否定するんです!」


「認めたな。自分が偽者だと言うことを。俺はなぁ、裏切られた気分でいっぱいなんだよ。お前に最初に会った時、まるで夢の様だった。最後に見たまんまの姿だったからだ。でもよぉ、それはウソだった」


「俺にとってはホントだったんです! 六問と言う人間の記憶が、俺を生かしてるんです!」


クローンであり六問の記憶を持つヒサは食い気味に自分の意義いぎを示す。


「それが………偽者の言い分なら………もっと偽者らしく邪悪な言葉を言えよ!!」


怒鳴りながら泣き崩れる幕昰、そんな彼に古代の戦士は優しく手を差し伸べる。


「やめろ………俺はお前の存在を否定した男だぜ………」


「良いんですよ。だって俺にとっては最高の相棒ですから」


その言葉にウソの二文字は感じ取れない。

涙をハンカチで拭い、その手を幕昰は掴み立ち上がる。

その顔は怒りではなく、笑みに変わっていた。


「まったく、分かったよ。2人まとめて俺が世話してやるから。その分キッチリ働いてもらうからな!」


「はい! これからもよろしくお願いします!」


ザーガの曇りなき返事に首を縦に振る。

お互いに戦闘体勢に入り、堕天使5体に立ち向かっていく。

マグナムで幕昰はプテラノドン・ダークエンジェルのベルト部分を撃ち抜き、さらにヒサは〈バーニングボンバー〉へと姿を変える。

巨大な火炎弾を両手で生成、撃ち放つ。

あまりのスピードに避ける暇もなく、撃破される堕天使にブラックナイト・ダークエンジェルは呆れた様子で息を吐く。


随分ずいぶんと自分の力に過信している様だな」


オリジンザーガのその一言を挑発だと判断し、平常心を保つ。


「何を言うと思えば。あなたは状況を分かっていない。このまま時間が経てばいずれ変身は解除される。そうなれば殺すのは簡単です」


「お前こそ分かっているのか? 俺達は所詮前座に過ぎない。この世には平和を望む戦士達が山ほどいる。俺が倒れても、お前達の戦いは終わらないぞ」


確かに神の力を授かれし戦士や人類が作り出した兵器によって堕天使は徐々に勢力を落としている。

その現状を知らない様子の黒騎士に忠告する六問。

いくら慢心した彼でも焦りを感じるはず。

だがそう思ったのが間違いだった。


「それで、私を焦らせるつもりですか? 笑わせてくれますねぇ。さあ、まだ体の慣らしが終わっていないので、付き合ってもらいます」


「自惚れが過ぎるな、さっさとかかって来い」


「では、遠慮なく」


力への過信が度を超えているが、作戦通り挑発には載せた。


音速で迫る黒騎士に破壊エネルギーを常時展開しているオリジンザーガは複眼から動きを読み取る。


「ふん!」


剣を振るった瞬間、破壊エネルギーに触れた刃が爆裂する。

しかしお構いなしに一撃を繰り出すと、回転蹴りで剣を弾き飛ばす。


「六問さん!」


最後の堕天使を撃破したヒサが最初の戦士の援護に入ろうとするが、それを手振りでばまれる。


「今の実力じゃこいつには勝てない。俺でもギリギリなんだよ。君の優先すべきは戦うことじゃない。人を守ることでしょ?」


先輩の助言に納得するザーガは首を縦に振り、仲間達と共に戦いを見守る。


「何をごちゃごちゃと。あなたが倒されれば次はあの方々が死ぬことになる。分かってますよね?」


地面に落ちた剣を念力で左手の方へキャッチすると、次元の裂け目を開き再び大量の光の刃を射出した。


それでも破壊エネルギーが邪魔じゃまをし、直前で消滅する。

だがそれと同時に変身の限界とザーガの腕輪が判断し、強制的に解除された。


(クッ、あの姿は慣れた俺でもキツいか)


体力の限界、そして破壊エネルギー常時放出による腕輪への負荷ふかが変身解除の原因。


フラつく彼に容赦なく再び光の刃を放とうとするブラックナイト・ダークエンジェル。


「さあ。その男を、始末して」


「バラダゼ様の逢瀬おうせのままに」


超級堕天使の命令に従い、放とうとしたその時。

なんとクラクションを鳴り響かせながら猛スピードでズートレーラーが突っ込んで来た。


思わぬ奇襲を食らい、大きく吹き飛ばされガードレールに激突する。


「みんな! 早く乗り込んで!」


停止した車両のスピーカーから光炎の指示が流れ、後ろ側のハッチが開く。


「ここは光炎さんの指示に従いましょう。なにか考えがあるんだと思います」


如鬼は指示に従い白バイに乗り込むと、ズートレーラーの車内に入る。


「幕昰さん、六問さん、俺達も行きましょう」


「あぁ。ここは一時休戦だな」


ヒサと幕昰は疲労困憊こんぱいの六問に肩を貸し、車両に乗り込む。


「ゴアドさんも早く!」


ザーガの叫びに西前は「俺には堕天使を倒す使命がある」と断り、変貌させたバイクに乗り込んだ。


「さあ、黒騎士さんよぉ。裁かれる用意はできてるか?」


挑発を聞いたブラックナイト・ダークエンジェルは首をポキポキと鳴らしながら立ち上がり、剣と盾を構え直す。

ズートレーラーのハッチが閉まり走り出すと同時にゴアドもバイクのエンジンを鳴り響かせるのだった。

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