第17話 「差し出され手を取るのは……」


朱の咆哮が魔人を倒すべく奮闘してた頃。

ザクロ、白モフ達はと言うと……



ベシッ、ベシッッ!!


『小僧何で着いて来おったのじゃ!』

「何でって言われてもなー」


黒モフの転移陣で中央エリアに飛ばされた俺たちは、黒モフに捕まる前に逃走。

見つけられ→逃走→また見つけられる→また逃走の追いかけっこの最中だ。

今は2人して茂みに隠れているが、今度は何分で見つかるやら。


だが、先程から白モフが顔面目掛けて尻尾で攻撃してくる。

ただ、本人は強めに叩いてるだろうけどモフモフだからモフ、モフッと顔に当たる尻尾はご褒美でしかない。

んーいつまでも堪能できそう……


『ハッ!小僧……もしや楽しんでないか?』

「…………そんな訳ないじゃん」

『なんじゃその間!?……見え透いた嘘をつくでないっ!』


バシッ!

クルっと華麗に回転した白モフは後頭部に一撃をかましてくる。


む、バレたか。

まぁ、もう十分に楽しめたからいいけどね。

痛くないし。


『で、何で……儂を助けた』

「だから、白モフのためじゃないよ」

そういや隠しエリアでそんな事言い合っていたな。

白モフに着いていったら面白い事になりそうだなって、若干思ってたのは事実。

だけど、白モフの為にって訳じゃない。

「どちらかと言えば俺の為かな?誰かが泣いてるのを見過ごせないんだよ」

『なんじゃ……偽善かの…』

確かに、朱の咆哮メンバー加入の時もそんな事言われたな。

特にツクヨミさんとかサカイさんに……ヨウスケはまぁ、あれで中身はピュアだから素直だったけど。


「だから俺の為って言ったろ。俺は好きでやってるの。……偽善って言われてもやりたい事を曲げたくないんだよ」


俺は昔から悪運が強かった。

幸い家族……父、母、姉の3人は俺の体質を理解して何かあったらフォローしてくれた。

だが、一歩外に出ただけで悪運に見舞われる始末。

何をしても失敗ばかりで、他人に白い目で見られるなんて日常茶飯事だった。

高校生になって、俺の体質を分かったうえで親友になってくれたのがクロウと、数人の仲間達。

俺がゲームにハマるキッカケはアイツ等がいたからかも知れない。

現実で無理なら仮想空間なら自由に出来るんじゃない?と親友の何気ない発言。

それが、自分の殻に閉じ籠っていた俺を外の世界に連れ出す“救いの手”だった。


―悪運だって運は運。変えられないなら楽しむしかない。……ようはどう楽しむかだろ。


モノクロの色のない世界が一瞬で色づいたそんな感覚。



そんな親友クロウに誘われて始めたワンエデだけど……2年間プレーしている中で1番の悪運はサービス開始初日だろう。


キャラメイクをしていざワンエデの世界へ!

と意気こんだのに、スタート地点はまさかの“空中”。

チュートリアルもないままいきなり空中にいるのだから、操作も分からずただパニックになりながらなすすべなく地上に落下。


訳も分からず開始1分にも満たず死に戻りをしたのだった。


その後、何度か再プレーしたが何度やってもスタートは“空中”。

これは、流石に悪運だけではないだろと思い公式に問い合わせした所『現在複数名の方から同様のお問い合わせを頂いております。重大なバグが発生したと思われる為調査中てす』との返答。


つまりその重大なバグを引き当ててしまった。


後日、調査結果がメールで届いたが要するに『普通は冒険者からスタートするがシステムエラーにより実装前の魔物化になってしまっている。修復は不可能』らしい。


被害者は12名。

基本ワンエデは1人1アカウントのみの登録が原則なので今のままでプレーしするしかない。

お詫びとして12名のユーザーには【変幻フォーゼ】という“偽り”の姿から“本来”の魔物姿に変われるスキルを貰えた。



正式リリースから5日後。

遅すぎるチュートリアルをこなし、クロウと待ち合わせをして2人でプレーしようとしたら、クロウも同じバグに遭遇してたらしい。


2人で愚痴って鬱憤も晴れスッキリしたけど、俺達以外にもバグの被害者っているんだよな……

俺は同じ被害者のクロウが近くにいたからいいけど、訳も分からず死に戻り続けるのって辛いよな。

しかも相談相手が1人もいない……そんな奴も中にはいるかもしれない。

殻に閉じ籠っていた俺を救ってくれた親友達みたいに、俺が誰かの拠り所を作れないだろうか?

ならいっそのこと【変幻】スキル持ちが集う場所が合ってもいいんじゃないか……と、クロウと共に朱の咆哮を立ち上げた。

ヨウスケ、ツクヨミさん、サカイさんが仲間になってくれて救われたのは俺の方なんだ……

皆の前では恥ずかしくて言わないけどね。



傷ずついた心を見てみぬフリをして静かに涙した日々。

そんな姿の俺と白モフが重なって見えた。

考えるより体が動いてしまった。

ただ、それだけ……


助けたいと思うのに理由なんて要らないだろ?


「白モフはさ……1人で寂しくない?」

『寂しい?……儂は……』



白モフに手を差しのべる。

躊躇いがちに触れるぬくもり。


俺は微かに震える白モフを優しく包み込んだ。



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