第155話 カペラ⑬

「うぅむ……一度、話を纏めさせてもらうとリゲルの考えは日本へ戻りスピカやレグルスを含める全隊員と合流した後、ロセアへ向かうということでござるな?」


「ああ、そう捉えてもらってくれていい」


 やはり、ロセアに行くことは諦めていないようです。

 でも、拙の目の届く範囲に居る状況なら拙は反対する必要はありません。

 悪魔狩りはマスターが全隊員に通達した謂わば勅命のようなものです。

 その勅命に逆らう者など居ないことを拙はよく理解しています。


「駄目よ。日本に巣食う悪魔も放っておけないわ」


「わちもマスターが許可してくれないと思う。やっぱり、ここからロセアに向かった方が良いよぉ」


「ふっ、お義母様は許可してくれるどこか同行してくれることになるだろう。レグルスの一手でね」


「「!!!」」


「マスターの協力を得られる!?」


「リゲル、どういうこと!?」


「お義母様が同行してくれるなんて心強いどころでは無い。勝ち確でござるよ!」


 リゲルはまさか拙が考えていた禁断の一手を?

 詳しく話を聞く必要がありそうです。


「お義母様の協力を得られるとは誰も考えていなかったこと……リゲル、詳しく話しておくれんし」


「はいっ♡ カペラさ……こほん! カペラの報告によるとレグルスは今現在、お義母様の側付きをしているという……」


「それは拙者達もカペラから報告を受けたでござるが?」


「レグルスに悪いことさせちゃ駄目だよ、リゲル」


 レグルスは数年前からお義母様のスケジュール管理を一旦に担っています。

 お義母様もレグルスに自身のスケジュールを全て任せ言われるがまま仕事をこなしていました。

 レグルスの協力を得られれば、お義母様を欺くことも容易い……でも、リゲルにその話をした覚えはありません。

 お義母様を欺くような行動を起こすことになるため、迂闊に口に出すと反逆者と捉えられてしまいかねない。

 特にコペルニクスに知られたら……ううっ、考えるだけでも恐ろしいです。

 拙はそのような方法もあると考えていただけに過ぎません。

 もしかして、リゲルも初めから考えていたとしか……。

 お義母様を信じて疑わない彼女がお義母様を謀るような行動を考えていたとは拙も驚きました。


「悪いことではないさ。マスターの仕事に僕たち星々の庭園が同行するだけだしね」

 

 なるほど……。

 拙の予想が正しければリゲルは……。


「もったいぶらずに話してくれない?」


「ふふっ、ここから先は帰国中に話そう。僕を抜いて話を纏めておくといい。だが、みんな……よく考えておいてくれ。誰かを犠牲にし尼僧を倒すか、誰も犠牲を出さず尼僧に復讐を果たすか……どちらが僕達にとって有益なのかをね」


 リゲルは1人、食堂を離れ保健室に入っていきました。

 リゲルを抜いて話し合う……なるほど、みんなに冷静になって話し合って欲しい意図があるのでしょう。


「……わたくしはリゲルさんの計画に賛成いたしますです」


「すみませぇぇぇん、アンセルと同じです」


「あたしも」


 尼僧によってここに連れ去られてきた隊員達のほとんどはリゲルの計画に賛成なようです。

 瑠流という仲間を失ったことが余程ショックだったのでしょう。

 彼女達を同じ目に遭わせないため拙も手を上げ、リゲルの計画に賛同の意を表明しました。


「わちは……どうしよぉ」


「ふぅむ、日本へは一度戻るだけでござる。尼僧は強敵でござるが一度は屠ることが出来た。ここから直接、ロセアに赴くか悩みどころでござるな」


 プロキオンとベガはバトル以外の状況下での判断力はあまり良くありません。

 そのことをシリウスだってよく理解しているはずです。

 この牧場でリーダー的な立ち位置にある彼女は目を閉じ思考を巡らせています。

 そして5分程の時間が経過したところでシリウスが口を開きました。


「一晩、時間を貰うわ。今後のためにもよく考えないと……」


 彼女が重要なところで決定打を与えられないことを拙はよく知っています。

 それがシリウスの唯一の弱点であることも……。

 彼女が聖欲で拙に再び襲い来る日も遠くないでしょう。

 なんとか、あの弱点を突くことはできないものか……。

 今日の会議は中断となり、みんな食堂から去っていきました。

 拙も食堂を離れ保健室に行きました。

 リゲルのあの様子が気になるからです。

 灯りは付いておらず窓から入る月明かりの中、月光の曲が流れ聞こえてきました。

 リゲルは窓辺でティーカップを片手に月を見ています。

 

「ふふっ、僕だけが……」


 独り言……いつもの彼女でした。

 さっきまでの彼女では無く拙は安心し声をかけます。


「リゲル、良い曲でありんすね」


「カペラ様!?」


 リゲルは拙が声をかけた途端、拙に抱き着きました。

 そこにいつもの彼女の姿はありません。

 瞳孔がハートマークになって顔も紅潮しています。

 拙が声をかけただけで態度が一変したかのよう……。


「ちょ……リゲル、どうしたでありんす?」


「カペラ様♡ 僕は既に分かっているんだよ。演技など不要……あの時、見せてくれた本来の姿で接して」


 ???

 リゲルの態度がまるで別人のようで訳が分かりません。

 あの時見せた?

 どの時のことなのでしょう?

 それよりも演技とは……まさか!?

 拙がここの誰よりも最弱であるよう振る舞っていることを見透かされている!?

 なんということでしょう。

 お義母様の勅命である能ある鷹は爪を隠すことがリゲルにバレてしまいました。

 流石は星々の庭園内で参謀を務められるほどの頭脳を持つ少女。

 拙はもしバレた時のことをお義母様から聞いていません。

 それに他の隊員達にはまだバレていないのは確実……仕方がありません。

 リゲルをわからせ……。

 

「カペラ様、僕は貴方の忠実な雌豚♡ みんなの前で僕は頑張ったんだよ。頑張って……強がって……話したんだ。だから……ご、ご褒美をちょうだい♡」


 !!!

 なるほど、そういうことでしたか。

 拙は安堵しました。

 リゲルに拙の真の力を知られてはいなかったようです。

 それは彼女が言った雌豚という言葉から受けて取れます。

 そう、彼女は3匹の子豚ごっこをしているのです。

 幼い時、みんなでよくしたものです。

 3匹の子豚役は拙達、隊員。

 そして、狼にはお義母様がよくやってくれました。

 あのごっこ遊びは訓練にもなる素晴らしい遊びでした。

 お義母様から放たれる本気の殺意に真の恐怖を味わいながら如何に捕まらないか冷静に隠れる必要がある。

 しかし、狼役のお義母様に慈悲は無い。

 最後にはみんな捕まりわからせられてしまうのです。

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