第14話 世界ⅱ絶たれた糸

「こちらへ」


 かけられた言葉の通りに、タカオミは示された場所へ歩み寄る。


 声の主は彼の主で、長身で初老の男だった。顔や手に年齢相応の皺が刻まれているが、発する声はよく通る。


 渡殿に二人並んで立ち、欄干の向こうの庭をしばしばの間無言で眺めた。上空からは今朝から止まること無く雪が舞い降り続けており、すっかり地表を覆い隠していた。


「少年は息災のようだね」


「はい。問題ございません」


「少女の方は……」


「良くも悪くも変わりません。頻繁に封書が届きますが、そこに書かれている限り健康も記憶も問題なさそうかと」


「そうか」


 男は自らの手のひらを、おもむろに眺めた。


「彼女に続く糸は、断ち切れたままだ。彼女の気配を辿ることができない。限られた条件下とはいえ、封書はなぜ行き来できるのか。私にも考えが及ばない」


 侑子が突然消えた日、あの瞬間確かにこの手のひらに感じた、プツリと糸が切れる感触。ピンと張られた糸に鋭い刃物が触れたように、いくらかの振動と衝撃を伴って。


 王と侑子を繋いだ神力の糸は、断ち切られていたのだった。


「イカラシ・ユーコは……彼女は装身具を身に着けたまま姿を消しました」


 花色の髪が僅かに揺れる。

身体ごと主の方へ向けたタカオミの、薄紫色の瞳が一度だけ瞬かれた。


「お上が伸ばされた糸端は、彼女が肌見放さず身につけていた装身具に、私が結びつけてきたのです。ちょうど一年前、彼女と初めて対面した日のことです」


「装身具は、彼女と共に彼の世界へと渡ったということだな。魔法の存在しない国へ」


 薄く笑った男は、咳き込んだ。ここのところ胸の調子があまり良くない。


「中に入りましょう。身体が冷えます」


「タカオミ――いや、今はアミだった」


 障子戸を開けながら促す近習の名を言い直して、王は続けた。


「引き続き少年の側にいるように。それから今後の私への報告は、マヒトにも同様のことを伝えるように。頼めるか?」


 菫色の瞳はいささか見開かれたが、すぐにアミは表情を消す。


「は」と短い返答をして、花色の頭を垂れた。

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