歌声⑦

 ユウキの親指が、侑子の目元にそっと触れた。こぼれ落ちそうになっていた涙を、拭い去ったのだ。


「泣かせてごめんね。聞いてくれてありがとう。ユーコちゃん、さっき俺の歌声を褒めてくれたでしょう。好きって言ってくれた。だから知ってもらいたいって、思ったんだ……。“才”なしの声で人前で歌う時、いつも母の声が頭の中に聞こえてくる。『その声を出すな。その声で歌うな。それはお前の声じゃない』って。違う。俺の本当の声はこの声だ! って反抗しながら歌っているんだけど、段々自分の本当の声って、どんな声だ? って自信がなくなってくる。だから今日、ユーコちゃんが俺の本当の歌を聞いて、好きだと泣いてくれたのを見て、とても……とても嬉しかった」


「私はただ、本当のことを言ったの。涙も流れて当然だと思った。それくらい、ユウキちゃんの声に力があった。それにジロウさんもリリーさんも、ユウキちゃんの歌声を認めてたよ。お客さんも心から拍手してた」


 だから自信を持ってほしい。

魔法の声は人々を惹きつける力があるけれど、本当のユウキの声には、人々の心を離さない力がある。

侑子はそう感じていた。


「……君だから、特別嬉しかったんだ。君が認めてくれたから」


 侑子の斜め上から、ユウキの続きの言葉が聞こえてきた。


「ユーコちゃんが、同じ夢の記憶を持ってる人だから」


「どういうこと?」


 真意が読めなくなった侑子の問いに、ユウキは真剣な眼差しを向けてきた。


「昨日はあの夢のこと、俺たちが出会う予知夢って言ってたけど……実はこの世界ではもう少し意味がある……はじめから話していなくて、悪かった。聞いてもらえるかな」


 突然話題が自分に関わるものに繋がり、意表を突かれた侑子は、ユウキの言葉を摑み取る前に頷いていた。

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