俺のことは死んだと思ってくれ
冬が近づく。俺は冷たくなり始めた秋の風に黒いコートの襟を立てて、物陰からそっと様子を窺った。
あいつらは嗤っていた。
「とうとう奴も年貢を納めたな」
「ああ、これで安心して暮らせる」
「せいせいするよ」
俺を嫌ってる奴らにどう思われようと構わない。むしろ死んだと思われている方が都合がいい。どうせ暗がりから暗がりを渡り歩く後ろ暗い稼業だ。
今のうちに平和を享受しておくがいい。俺もほとぼりが冷めるまで暖かい所にでも行って、しばらくはゆっくりするさ。
嫁と子供を作って家族を増やすのもいいな。来年の夏に俺が戻って来たら、奴らどんな顔するかな。今から楽しみだ。
「俺のことは死んだと思ってくれ」
俺は独り呟いて、その場を後にした。
「まったくアイツにはビビるよな」
「ああ、暗いとこから急に出てくると心臓に悪い」
「マジでいなくなって良かった。もうずっと出てこないで欲しい」
季節はもうすぐ冬。黒いアイツとはしばらくお別れだ。男達は笑いながら棚にゴキブリ殺虫剤をしまい込んだ。
◇◇◇◇◇
戻ってこなくていいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます