本当の戦いはこれからだ
大魔王サタン。
彼はかつて、全ての【大罪の権能】を有していた。
大魔王になるということは、この場にいる魔王たちに勝利し、大罪の全てを手に入れること。
リリスが成し遂げなければならない試練だ。
「それと、俺は別にリリスの部下ってわけじゃない」
「あ、アレン?」
何を心配そうな顔をしているんだか。
「じゃあ何だよ。逆にお前がおもちゃにするつもりか? そういう趣味か」
「お前も他人を変態扱いするのか……リリスに似てるな」
「んだと!」
「ふっ、部下じゃない。俺はあいつの……あいつが父親から受け継いだ理想に共感した! 同じ夢を見る仲間だよ」
「大魔王様の理想?」
ベルゼビュートは頭に疑問符を浮かべたようなしかめっ面をする。
この反応……まさか知らないのか?
元幹部の癖に?
それって、よほど信用されてなかったんじゃないか?
「ははっ」
「何笑ってやがるんだ」
「いや別に、ちょうどいい。今日、ここへ来たのは周知させるためだったんだよ。俺たちの目的を!」
全員が改めて注目する。
ルシファーは瞳を輝かせ、笑みを浮かべて俺を見る。
「よく聞け魔王ども! 俺たちが望むのは全種族の共存だ!」
「共存ですかぁ?」
「んだそりゃ」
「……へぇ」
魔王たちの反応を見て、次のセリフを口にする。
彼らは訝しみながら、俺の言葉を待っていた。
「そのためには魔界を統一する必要がある。なら、手に入れるべきはお前たちの力だ。共感するなら共に戦おう。抵抗するなら……その力、奪わせてもらう」
「……はっ! 勇者のセリフとは思えなねーなぁ」
「俺としては、勇者なんてとっくに辞めてるつもりだ。けど、周りはまだ俺を勇者扱いするんでね」
「オレたちに啖呵キレる奴なんざ、勇者以外にいるかよ。んで、そんな大口叩いたんだ。この場でおっぱじめるか?」
ベルゼビュートからこれまでの中で最大の殺気が放たれる。
俺に向けた殺気だが、離れているサラやリリスにも伝わっている。
二人とも硬直していた。
無理もない。
魔王の中でも間違いなく、この男は三本の指に入る強者だ。
「どうすんだよ?」
「……さっきも言った通りだ。ここで俺が倒しても意味がないんでね」
俺は聖剣をしまう。
「俺に戦う気はない。が、どうしてもというなら受けて立つぞ」
「……」
にらみ合う。
一触即発の雰囲気が流れる。
最悪の場合、ここで大乱闘ってパターンも考えられるが……。
パチパチパチ。
緊張を和らげるように、拍手の音が響く。
手を叩いているのはルシファーだった。
「ルシファー……」
「見事だ、勇者アレン。宣言は確かに受け取った。ここで戦うのはやめてもらおう。俺たち魔王は、この場での戦闘行為を禁止する……という契約を結んでいるんだ」
「なんじゃと?」
「ああ、もちろん攻撃された場合は別だ」
無抵抗の魔王を倒せる、とでも考えたのだろう。
リリスがガッカリしている。
そんな簡単に済めばよかったんだけどな。
「チッ、ばらしやがって」
こいつ……わざと挑発して攻撃を誘ったな。
そうすれば契約を無視して戦えるから。
「ずるい奴だな、お前は」
「……はっ! てめぇに言われたくねぇよ、ペテン師が」
ただの短気な馬鹿だと思ったらそうじゃないらしい。
もし本気でぶつかっていたら……どうなっていただろう。
場が静まり返り、空気が固まる。
「さて、今回の会議はここまでにしようか」
「ああん? もう終わりかよ」
「ああ。彼らをここへ招待したのは目的を確認するためだ。もしかしたら仲良くできるかも……と思ったけど、難しいようだな」
「当たり前だろーが」
呆れながらベルゼビュートはぼやく。
ルシファーは笑みを浮かべる。
俺と視線が合う。
「仲良く……ねぇ」
思ってもいないくせに。
「お前たちも覚悟しておくんだ。彼らは俺たちを狙っている。最初に狙われるのは誰かな? 今後が楽しみになってきた」
「けっ、いつでも来いや」
「ボクは面倒なんであとでいいですぅ~」
こうして、大罪会議は終了する。
会議終了から各城へ戻るまで、彼らは戦闘行為ができない。
そういう契約となっている。
知っているのは彼ら自身と、一部の幹部のみだそうだ。
つまり一応、俺たちの帰路の安全は確保されている。
「アレンはずるいのじゃ」
「なんだよ急に」
王城を出た街中を歩く途中、藪から棒にリリスが俺に言った。
「ワシには動くなと言ったくせに、自分は動いたのう!」
「俺はいいんだよ。強いからな」
「ムカつくぅ……じゃったらそのままベルゼビュートくらい倒せばよかったじゃろ」
「あー、まぁそれも本気で考えてたんだけどなぁ」
「え、本気じゃったのか?」
権能は悪魔が倒さないと手に入らない。
とは言え、誰が持っているかという部分も重要だ。
あの場で奴らを倒せば、他の悪魔に権能は移動する。
奴らを相手にするよりよっぽどマシな相手に。
だから可能なら倒してしまっても構わないと思っていた。
「無理だった。全員冷静だったからな。俺に命を握られているような状況で」
「確かにそうじゃな……」
一番近かったベルゼビュートですら、驚きはしても冷静なままだった。
まったく動揺していなかったんだ。
要するに奴らは皆、あの状況を打開する手段を持っていた。
特に……。
「リリス、帰ったらすぐ特訓だ」
「な、なんでじゃ! 長旅じゃったから休憩!」
「してる暇はない。宣戦布告した今、向こうから襲ってくる可能性もある。今のお前じゃ十秒も戦えないぞ」
「むっ、そこまでか……」
正直見立てが甘かった。
大罪の魔王……彼らの力は強大だ。
誰一人として、今のリリスでは戦いにならない。
「急いで強くなれ。大魔王になるんだろ? 馬鹿にされたままでいいのか?」
「それは嫌じゃ! 絶対に見返してやりたい!」
「だったら足掻け。俺も付き合ってやる」
「……うむ。仕方がないのう」
俺たちにとって最大の試練は、この時に始まったのだろう。
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これにて『大罪の魔王』編は完結です!
速く読みたいと言う方は、ぜひ『小説家になろう』版をご利用ください。
URLは以下になります。
https://ncode.syosetu.com/n2294hx/
よろしくお願いいたします!
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