『最強の勇者編』
最強のコンビ
王国では一週間に一度、国王や大臣を集めた会議が行われる。
国政についての話し合いだが、魔王に関する情報共有や、戦況ついても語られる。
次にどの魔王を討伐すべきか。
勇者ランキングの見直しも、この時に行われる。
形式的かつ順調に進む会議だが、此度は非常に荒れていた。
「ことは一刻を争う!」
「そんなことは皆わかっている! 重要なのは対策だ!」
「簡単だ! 至急ランキング上位の勇者を招集し、最大戦力を送り込むしかない!」
「現実的ではありません。すでに上位の勇者たちは魔王討伐に出ています。彼らを一つの任務に集めるなど……その間、魔王たちの横暴を許すことになる」
議論は白熱する。
これほどまでに激論を繰り広げ、意見が対立した会議は初めてであった。
しかし当然でもあった。
勇者ランキング一位、最強の称号を持った勇者アレンの裏切りは、王国の進退に大きな影響を与える。
判断を間違えば、王国は破滅するだろう。
すでに彼らは多くの選択を間違えてしまっている。
事態はひっ迫していた。
「陛下! どうかご決断を! このままでは事態が世間に広まる! そうなってはおしまいです!」
「うむ……」
国王は悩む。
勇者アレンを討伐するには、相応の戦力が必要になる。
生半可な人員では意味がないことは、第七位の勇者シクスズの敗北で誰もが認識していた。
あの戦いの結果が、勇者アレンの裏切りを決定づけたとも言える。
だが、安易に戦力をまとめることもできない。
なぜなら彼らの敵は勇者ではなく、魔王なのだから。
そう、勇者アレンの喪失は、王国の戦力の一角を失ったことを意味する。
他の魔王に知られた時点で、魔王たちは王国を攻める可能性がある。
そんな状況で、貴重な戦力を失うわけにはいかなかった。
故に、国王は決断に悩む。
可能であれば少数精鋭で、勇者アレンを倒さなければならない。
「そんなことが可能な勇者など……」
「……随分とお困りのようですね、陛下」
「私たちのお力が必要ですか?」
二人は唐突に現れた。
会議の場に、音も気配もなく。
白銀の髪の青年と、淡い金髪の淑女。
その場の全員が注目し、国王は目を大きく開く。
全員が驚き声を忘れる中で、大臣の一人が歓喜する。
「おお! 戻られたのか! 勇者レイン、勇者フローレア!」
「はい。さきほど帰還しました」
「皆様、お久しぶりでございます。お身体は変わりありませんか?」
「ああ、我々は元気だ。お二人も無事なようで何よりだよ」
勇者ランキング暫定二位、勇者レイン。
同じくランキング九位、『最善』の勇者フローレア。
このコンビを知らぬ人間は存在しない。
最強の個はアレンで揺るがないが、最強のコンビは誰かと問われれば、皆がレインとフローレアを挙げるだろう。
帰還した二人を前に、国王はひらめく。
「レイン、フローレアよ。お前たちに頼みたい依頼がある」
このコンビであれば、最強の勇者アレンを倒すことができるかもしれない。
危機的状況にやってきた救世主だと。
そんな考えを見透かすように、レインは答える。
「勇者アレンのことですね」
「――! 知っていたのか?」
「ええ、触り程度ですが聞いています。勇者アレンが裏切り、魔王と手を組んだと……噂だと思っていましたが、その様子は事実なようですね。非常に残念です」
「ああ、信じがたい事態だ。このままでは国民の平穏が脅かされてしまう。どうかお前たちに、この絶望的な状況を変えてほしいのだ」
国王は二人に願う。
もはやこの状況を打開するには、彼らに頼るしかない。
もしも彼らが破れることがあれば……今度こそ打つ手はなくなる。
全ての勇者を動員するしか。
百年前の……大魔王討伐のように。
「ご安心ください、陛下。私たちはいかなる悪も許しません。たとえ相手が、元勇者であろうとも……悪を成すのであれば、私たちが倒すべき敵です」
「おお、勇者フローレア」
「必ずご期待に沿う結果をお見せします」
「頼もしいぞ、勇者レイン。この任務が無事に終わった暁には、そなたがランキング一位、『最強』の称号を持つ勇者になろう」
「最強……」
レインは眉をピクリと動かす。
ニコやかに、彼は言う。
「光栄でございます」
レインはお辞儀をして、会議を去っていく。
その隣にはフローレアがいる。
二人は並んで歩く。
無言で進む途中で、フローレアがレインにぼそりと呟く。
「嬉しそうですね。レイン」
「――ん? そう見えるかい? フローレア」
「ええ、とても嬉しそうな顔をしていました」
「不謹慎だね。気を付けるよ」
口ではそう言いながら、レインの口角は緩む。
フローレアも気づいているが、これ以上はつっこまなかった。
勇者レイン、彼にとってアレンは超えられない壁だった。
常に上に君臨する最強で絶対の勇者。
第二位でありながら、アレンがいるせいで称号も与えられない。
世間では彼を、勇者アレンの代役という心ない者たちもいる。
勇者とはいえ、彼らは一人の人間である。
人と同じように怒り、喜び、悲しむ生き物だ。
普段は表に見せないだけで、彼らはいつだって胸に様々な思いを抱いている。
たとえばそう、劣等感や敗北感というマイナスな感情も。
それを決して、信じる人々の前では見せないだけで。
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