第25話 懺悔《ざんげ》と残念

桃馬と二匹の駄犬による一騒ぎは、二年三組の両津直人と三条晴斗による仲裁によって、一時の幕引きとなった。


その後、暴走の果てに、桃馬からキツイお灸を据えられたジェルドは、かつてないショックを受けていた。


ジェルド「わふぅ……。」


小頼「元気出しなよジェルド~♪ほら、もう桃馬は怒ってないからさ~♪」


桃馬「まだ許してないよ…、てか、勝手に話を進めるな。」


ジェルド「うぅ……、ほら、まだ怒ってるじゃないか〜。わふぅ〜、小頼〜!慰めてくれ〜。」


小頼「あぁ〜、ほらほら、よしよし〜。もう~、桃馬も許してあげなよ?ジェルドにあんな風に触られるなんて、女子からして見れば羨ましいんだよ?」


桃馬「俺は男だ、女じゃない。」


小頼のフォローも虚しく、桃馬の曇った表情が更に曇る。


桜華「と、桃馬?確かにジェルドがした事は、かなり変態的で怒りたくなる気持ちは分かるけど、せっかく直人さんと晴斗さんが仲裁してくれたのですから、そろそろ許して上げても…。」


桃馬「ふ、ふん、だめだ。ここで許したらすぐ付け上がるからな。」


ジェルド「……うぅ、と、桃馬〜。」


桃馬「ショタになってもだめだからな!」


小頼に慰めてもらっていたジェルドは、気づけばケモ耳ショタの姿で反省の色を見せていた。


桜華「か、可愛い!?」


桃馬「だ、騙されるな桜華!?み、見た目は、ち、小さくて可愛いけど、な、中身は所詮、性欲に飢えたジェルドだからな。」


心を惑わす凶悪な"ケモ耳ショタ"の姿に、心を射抜かれてしまう桜華に、桃馬はつかさず注意を呼び掛けた。


しかし、その注意をした桃馬でも、ショタ化したジェルドの誘惑に勝てない様で、チラチラとジェルドを見ては、今すぐにでもモフりたそうにしていた。



これに手応えを感じたジェルドは、大胆にも桃馬に抱きつき擦り寄り始めた。


ジェルド「ご主人様、ご主人様……。さっきは、暴走してごめんなさい。僕は本当に悪い子です。ご主人様への想いが強過ぎる余り、ご主人様に迷惑を掛けてしまいました。どうか、こんないけない僕を罰してください。」


桃馬の体に顔をうずめ、渾身のショタボイスを放ちながら謝る姿に、桜華は口元に手を置き漏れ出しそうな声を抑える中、桃馬は苦虫でも噛み締めた様な表情をしながら葛藤していた。


桃馬「だー、うるさい!うるさい!こっち来いバカ犬が。」


ジェルド「んんっ〜♪わふぅ〜♪。」


強情な姿勢であった桃馬でも、ショタ化したジェルドに勝てるはずもなかった。


桃馬は、ショタ化したジェルドを抱き寄せ、ふわふわな耳と尻尾をモフりにモフりまくった。


こんなに可愛くても中身はジェルド……。


そんな事は分かっている。


分かってはいるのだが、目の前にいる白くて可愛い毛玉を拒絶するなど、桃馬には出来なかった。


ジェルド「くぅ~ん♪ご主人様~♪」


許されたと感じたジェルドは、甘ったれた声を出しながら、満足そうに尻尾を振った。


桜華「あぁ〜!桃馬ばっかりずるいですよ~、私にも触らせてください!」


小頼「あっ!私も触る~♪」


可愛いとは、とうとくて罪深く、そして最強である。


あんなに剣幕を立ててた桃馬でさえも、ショタ化したジェルドには敵わなかった。


それなら始めから、ショタの姿でセクハラすれば良いのではないかと、率直に憲明は思うのであった。



その頃、もう一匹の駄犬ことギールはと言うと、二年二組の自教室に戻っていた。


ギールはジェルドと違い、直接的に桃馬をセクハラをした訳では無かったため、大きなおとがめは無かった。


しかし、ジェルドが暴走した事により、"桃馬好き放題"の権利を共に制限されてしまい、要らぬ"とばっちり"を受けたギールは、酷く落ち込みながら机に突っ伏していた。


ディノ「に、兄さん、お気持ちは分かりますけど、午後の授業もありますし、少しは切り替えた方が……。」


ギール「…わふぅ………無理だ…。」


シャル「ぬはは〜♪そう落ち込むでないお兄ちゃんよ~♪」


意気消沈状態のギールを見て心配するディノに対して、落ち込むギールの姿が面白がっているシャルは、上機嫌にあおりまくっていた。


ギール「ジェルドのせいで……俺は……うぅ……構ってもらえる機会が……減ってひまっひゃ……うぅ、何で俺まで制限ひゃれるんだよ……。」


シャルの煽りが聞こえていないのか、ギールは無視して黄昏始めた。


ディノ「に、兄さん……。」


シャル「うむうむ、お兄ちゃんは構ってほしいのか。仕方ないの〜、余が直々に構ってやろうではないか!」


ギール「お前は悪意があるからいい……。」


話が聞こえない程落ち込んでいると思ったシャルは、ギールに取って絶対に嫌がるであろう誘いを持ちかけたが、実は対抗する意欲が無かっただけのギールは、シャルの誘いを即断で手短く断った。


シャル「っ、な、なんじゃと!?はっ……こほん、そ、そんな事を言って~♪体は正直なくせに~♪」


ギールからの即答に驚いたシャルは、思わずギールの尻尾に噛み付こうとするが、珍しく冷静に思い留まりギールの尻尾に抱きついた。


ギール「きゃふっ!?こ、こらやめ……。」


シャル「ほらほら~♪口では嫌がっても尻尾は素直だぞ?ギールの尻尾は、桃馬じゃなくても触られるなら誰でも良いのだな〜?」


ギール「ば、バカ言うな……くっ、そんなわけ……きゃふん!?」


シャル「ふっ、可愛い声を出しよって……、桃馬に尻尾をモフられる時は、いつもこうなのか?」


ギール「う、うるへぇ……も、もう…良いだろ…触るな……。」


シャル「よ~し、いいだろ〜♪」


ギール「わふっ!?ふぇ……。」


いつもなら"やめろ"と言っても"やめない"シャルであるが、ここでも珍しくギールの言う通りに手を止めたのであった。


実際、シャルに尻尾をモフられている事で少し気が紛れていたギールは、好き勝手に尻尾をモフって来るシャルに対して、気持ちが良いと言う本心を隠しながら、更にモフって貰おうとしていた。


普段のシャルなら、ここで"やめろ"と言いつつ弱々しい姿を見せれば、調子に乗って更にモフってくれると思っていたが、ここに来て予想外過ぎる展開に、思わずギールは困惑してしまった。


中途半端な所で寸止めされたギールは、思わず物欲しそうな顔でシャルを見てしまう。


その様子を待っていたのか。


シャルの表情に笑みがこぼれ、イタズラモードの表情に変わったのであった。



シャル「おや~?お兄ちゃんどうしたの?」


ギール「っ、な、なんでも……ない……。」


シャル「嘘を言うでないぞ?本当は物足りないのだろ??」


ギール「ち、違っ……、お、お前なんかに触られても、ふ、不甲斐な……だけだ。」


シャル「にしし、声に震えておるぞ?ほれほれ~♪」


ギール「わふっ!?」


物欲しそうにしているギールに、シャルは再び尻尾を掴んだ。


短期間の内で、ギールの繊細で敏感な尻尾を熟知したシャルは、絶妙な手つきで尻尾の先端部分を優しくこねくり回した。


ギールに取っては、焦らされている様な感覚に、思わず机にしがみついた両手に力が入る。


ギール「うっ、うぅ〜…、はぁはぁ、こ、こそばゆい……はぁはぁ、や、やめろ…シャル……はぁはぁ。」


シャル「何を言っておるのだギールよ?……やめる訳がないであろ、お主はこうなる事を求めていたのだからな。」


机に突っ伏すギールに対して、尻尾を触りながら耳元でささやくシャルは、偶然にもギールの想いを言い当ててしまった。


これにギールは、心を見透かされたと思い黙って頷いた。


何とも微笑ましい光景に、クラスの生徒たちは、微笑ましく傍観ぼうかんしていた。


その一方で、シャルを止める隙を伺ってはいたが、中々止める隙が見当たらず黙って見ていたディノは、ここでようやく午後の授業が始まると言う口実で、シャルを止めようとしました。


しかし、この光景をもう少し見ていたい女子生徒と、この気にディノと遊びたい女子生徒が結託し、ディノがシャルに声を掛け様とした時、多くの生徒に囲まれてしまった。


ディノ「あ、あの、すみません。今からお二人を止めないと……ひゃっ!?」


後ろからスタイル抜群のクラスメイトに抱きつかれてしまい、思わずディノは、女の子見たいな声を漏らしてしまった。


これが災いして、ディノを取り囲んだクラスメイトたちは、一斉に目の色を変えて触れ合い始める。


女子「ひゃっ♪だって、超可愛い〜♪」


女子「はぁはぁ、なるほど〜、ディノくんは男の娘才能がある様だね〜♪」


女子「ふへぇ〜♪ぷにぷにとした頬っぺ~♪やっぱり、スライムだからかな?」


女子「はぁはぁ、男の娘最高♪男の娘最高〜♪」


ディノ「〜〜っ///あ、あの……、も、もうすぐ午後の授業が……ふあっ。」


時期に昼休み終了の予鈴が鳴ると言うのに、女子生徒たちは小さなディノの体をまさぐりながら癒されていた。


その光景に、一部の男子が羨ましそうに見ていた。


男子「くそぉ、俺たちもディノと遊びたいのに〜。」


男子「ディノは男じゃない……。神に選ばれた男の娘だ。あぁ〜、遊びたい。お菓子あげたい。アルフォートあげたい……。」


男子「なら、誘えばいいだろ?」


男子「簡単に言うなよ。いつも一人で居るならともかく、普段からギールとシャルちゃんの二人と一緒に居られたら、声を掛けづらいだろ?」


男子「確かに、そもそもギールが許さないだろうな、あいつシスコンとブラコンだしな。」


ちょっとしたギールへの"ディスリ"が入る中、男子生徒たちに取ってもディノは人気のまとであった。


その後、自由すぎる昼休みは予鈴と共に、幕を下ろすのであった。


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