Chapter 5-4

 足音からして十人はいるだろうか。これだけいて全員仲良く引き篭もっていたのか、と思ってしまうね。

 それだけの人数を三峰一人に任せてしまって大丈夫か、と思うだろうけれど、むしろ三峰で駄目なら僕にも無理だ。各種格闘技をマスターしている彼女が敵わない相手に、僕が敵うと思うかい?


 ……自分で言ってて気が滅入るなぁ。

 ともかく、「なんだガキじゃねぇか」とか「一人で相手になると思ってんのか」とかいかにも柄の悪い連中がいいそうな台詞が聞こえてくる。他はここには書けないような下品な罵詈雑言だったので割愛。この作品は「THE健全」なんですから――以下略。


「安心しろよ、殺しやしねぇ。ま、せいぜい身代金の足しになってくれや」

「――気安く触るな」


 男の断末魔が響き、扉の向こうから一人の男が投げ飛ばされて来る。庭に叩き付けられた彼の意識は多分ない。うわぁ……。助けてやる気はないけど、ちょっとかわいそうだなぁ、あれは。いつも三峰にボコされている僕としてはちょっと同情してしまう。


「てめぇ!」

「やっちまえ!」

「あがっ!?」

「ひぃい!?」

「うぎゃあ!?」


 威勢よく殴り掛かって行こうとする声が、どんどん悲鳴に変わっていく。庭にはぽいぽいとゴミのように男の山が積み上がって行く。見えなくてよかったぁ。


「人質がどうなってもいいのか!? お前、三峰真綾を助けに来た冴木のもんだろう!?」

「確かにそれは困るが。ただ、もしそうなったとして。その後貴様の命があると思うな」

「ひぃっ!?」

「それと、一つ言っておくが。三峰真綾は私だ。貴様ら、よく人の顔も知らずに誘拐などできたものだな」

「んなぁ!?」

「……私、宇佐美謡。よろしくね、誘拐犯さん」


 声だけ聞いてるととんだ三文芝居だな、これ。僕が出る幕ないんじゃないの? 宇佐美先輩、変な事に巻き込んで済みません。もうすぐ終わりますから。


 ……僕の出番はだいぶ怪しくなってきましたけどね!


 犯人側で残っているのはどうやら、宇佐美先輩を掴まえている奴だけのようだ。一応、僕がどうやって入って行こうか考えていると、どこか遠くからプロペラの回るような音が聞こえてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る