【中編】冴木慎之介は許嫁の事が嫌いだ。【完結済】

椰子カナタ

冴木慎之介は許嫁の事が嫌いだ

Chapter1 君がモテない理由を教えてやろうか?

Chapter 1-1

 タイムリミットは刻一刻と近付いていた。


 試合終了まであと十秒。点差は2。こちらのビハインド。

 聞こえるのは、自分がドリブルしているボールの跳ねる音、僕を含めたコート内を駆ける十人の足音、コート外で応援している生徒たちの声やカウントダウンの声。

 すべての喧騒がゆっくりと、そして遠くに聞こえるような感覚があった。


 陽乃坂ひのさか高校球技大会、男子バスケの部決勝戦は、我らが二年A組と三年C組の先輩たちによる対決となっていた。


 これが正真正銘ラストプレー。僕たちに残された最後のチャンスだ。


「シン、パス!」


 大きく手を上げてパスを要求したのは、腐れ縁の友である赤西歩あかにし あゆむだ。だが、彼はバスケ部のマーカーにきっちりディナイ――パスコースをふさがれていて、とてもではないがパスが通るようには思えない。

 パスが欲しいならもっとうまく動いてほしいと言いたいね。

 まあ、それ以上に彼にパスしたくない理由があるにはあるのだが。


 ともかく、他の三人も同様だ。相手が上級生という事もあって多少のやりにくさはあったものの、こうしてなんとか食らい付いて来た。

 それもこれも、僕の神業的プレーのおかげだ。ふふん。


 ……けれど、それももう限界か。



 ――いや。諦めたくはない。



 僕は腹を括って歩へ視線を送る。それだけで歩は頷き、アイコンタクトが成立する。こういうときは流石だよ。普段は察しが悪くて嫌になるけれどね!


 これを見た僕の前に立つマーカーは、歩へのパスと読んで、カットしようと動く。


 しかし僕はそのスキを突いてドリブルで彼を抜いた。すぐさま歩のマーカーがヘルプに入って来るが、その瞬間、思わず笑みがこぼれた。

 僕は後方へとパスを出す。そこには、マークが外れてスリーポイントライン上でフリーになっている歩の姿があった。


「ナイスパス、シン!」

「ちゃんと決めてくれよ」


 歩の撃ったシュートがゴールに吸い込まれ、ボールが床に落ちるのとほぼ同時にホイッスルが鳴った。試合終了寸前のゴール。いわゆるブザービーターというやつだ。


 これにて試合終了。つまり、僕らのクラスの優勝だ。


 僕と歩は顔を見合わせる。ハイタッチをしようと互いに両手を上げたところで――。


「キャー! 赤西くーん!!」

「やったな赤西ー!」

「歩せんぱーい!!」

「え? いやぁ、シンがいいパス出してくれたから……」


 そんな僕を押しのけて、歩の元にクラスメイトやらなんやらが押し寄せる。


 まあ要するに、これが歩にパスを出したくなかった一番の理由なのだ。

 成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗品行方正にして大企業の社長の御曹司であるこの僕、冴木慎之介さえき しんのすけは、どういう訳だか赤西歩の引き立て役として、世間一般に認識されているのである。

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