46 1000年後のピクニック




「ほんと、すごく綺麗。」


と彼女が海岸の砂浜に座って声を上げた。


「そうだろ?俺もここが好きなんだ。」


よく晴れた海岸だ。

静かな波が砂浜にゆっくりと押し寄せている。


「うん、一度来たかったから楽しみだった。

来られて良かった。」


彼女は俺を見る。


「連れて来てくれてありがとう。」


俺はその顔を見て嬉しくなる。

そして俺はそっと彼女の体を引き寄せた。


「そう言ってくれるとピクニックに来た甲斐があるよ。」


俺は海を見た。


「泳ごうか。」

「うん、海の中に潜ってみる?

沈んだ建物が見たいな。」

「1000年前に沈んだ建物だぞ。」


彼女は自分が座っている砂浜を見た。

そこの中にはきらきらと光る粒もある。


「この光るものはガラスなんでしょ?

沈んだビルの窓ガラスだって。」

「そうだよ、もう水に洗われて砂と一緒だけど、

光に当たると輝くから綺麗だよな。」

「持って帰ろうかな?」

「止めとけよ。何が出るか分からないぞ。」

「怨念?」

「かもな。」


と言うと彼女は立ち上がった。

その向こうに俺は景色を見る。


海岸近くには崩れかけたビルが沢山あった。


窓にはガラスは無く全てぽっかりと穴が開いている。

コンクリートも塩水に長年浸かっているからかボロボロだ。

鉄骨も真っ赤に錆びて崩れている。


その建物の間に海が静かに広がっていた。

青く透明な清らかな海が。


「大昔にはここに沢山生き物がいたんでしょ?」

「そうだよ、環境破壊や戦争でこうなった。」

「怖いわね。」


と彼女は俺に触手を伸ばした


「海に入らない?」

「ああ。」

「昔の生き物の骨があるかもよ。」

「あれ、すごいよな、俺達には骨が無いからびっくりするよ。」

「繊細よね、白くて綺麗。」


俺は柔らかい彼女の触手を握った。


俺達はお互いに触手を絡み合わせて海に入った。

水の中は俺達にとっては家のようなものだ。


暖かく柔らかな水が俺達の体にかかった。





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