3  魚





山に登る。


日の出から登り始めて

大人の拳が三つぐらい太陽が昇れば頂上に着く位の山だ。


背中にはこの前作った網がある。

新しい網の使い心地も今日は試してみるつもりだ。


体中が汗まみれになり俺は山を登る。

何度も通った慣れた道だ。所々で動物がひょいと顔を出す。

今日はお前らを狩りに来たのではないと分かっているのかもしれない。

背中の獲物が違うからだ。


しばらくして頂上に着いた。眼下に俺の村が見える。

風が気持ち良い。

俺はちょうどいい高さの石に座り弁当を出した。

妹が作ってくれたものだ。

あいつもそろそろ嫁に行く歳だ。

今日の漁で少しでも儲けが出れば足しになるだろう。


俺は空を見た。雲が流れていく。


そろそろ流れが来るはずだ。長く漁をしている俺の勘が働く。

遠い風上にもやもやとした黒っぽい靄のようなものが見えた。

風が吹く。さっきよりも強い風だ。


やはり来た。

俺は目を凝らした。

砂粒のような細かいものが渦を巻くように近づいて来る。

強い風が顔に当たる。


そして一つ一つの粒がはっきりと形になった。


空魚そらうおだ。


様々な大きさの空魚が群れを作りこの山を越えるのだ。

俺は網を構えた。

一瞬の勝負だ。

力を込めて精一杯広がるよう網をふるった。

空魚はその真ん中に突っ込んでくる。

俺は魚の力で強く引っ張られ倒れそうになるのを必死で踏ん張った。


網の目は大きい。

隙間から小さな魚が逃げていく。

前の網より目を大きくしたのだ。

大きな魚だけ網にかかり少しばかり薄くなった靄がゆっくりと離れていく。


大きな空魚はもがき、そして少しずつ浮き上がる。

俺は網のふちを慌てて自分の体に巻き付けた。


空魚は空を飛ぶ。


網は浮き上がり俺の体も地面から離れた。

空魚と網越しに目が合う。

あいつらにも命があるのは分かっている。

だが俺も生きている。

生き続けるために生き物を狩る。

それは何一つ迷う事のない真実だ。


俺は浮き上がり少しずつ調整しながら村へと下って行った。

網にかかった空魚は徐々に弱っていく。

すると浮き上がる力も弱くなるので村に戻るにはちょうどいいのだ。

登りよりはるかに早く村に戻れる。


日差しは暖かく気持ちが良い。

俺は空魚を見上げた。

大漁だ。


これを売って金に換えよう。

家族が喜ぶ。

そして村人も新鮮な魚を喜ぶだろう。


それが俺の生きる術だ。

それで俺は良いと思う。





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