第6話帝国死すべし
彼女と同化すると、阿吽の呼吸で意思の疎通が可能となる。
>>モード/ロングソード
両腕の先を巨大なソードの形に成型。黒鋼の巨体を前屈に屈め全力で踏みしめる。両手のソードを前面の兵士に向けたまま突進。石畳みの砕ける音が聞こえる。
三メートルもの巨大なソードで、団子状に串刺しにされた兵士数名が、叫びながらびくびくと蠢く。
『しぃぃぃぃいいいいいね゛ぇぇええええええッ!!』
両手を振り上げ、硬質な石畳に兵士をぶちまけると、胴体が真っ二つに引き裂かれ、臓物が周囲にびしゃりと――飛び散る。
『あーひゃひゃひゃひゃひゃッ!』
テントの建てられた兵士の群れへと突撃すると、ソードを展開したまま――回転。首を失い、噴水のように噴き出す血液。転がる頭。広場は阿鼻叫喚の地獄と化す。
私の担当作業は、バーサーカーキルテちゃんのサポートである。
チマチマと兵士の心臓部のエネルギーと、鎧の良質な金属を黒針で回収している。ここまでキルテちゃんにバーサーカーの才能があるとは。
開催された祭りの会場には、王都民も参加してくれているのだが余計な事は言わないでおこう。さあさあ殺しつくせッ!
『いち、にい、さぁんッ! しぃ、ごぉ、ろっく!』
次々に飛んでいく頭部に、ゴキゲンな様子で数を数えて行く。
『装備変更ッ!』
ええ、はいはい。ソードをギガントフィストに変更ね。
>>モード/ギガントフィスト
兵士の胴体を片手で掴み取ると、雑巾絞りのようにギリギリと絞り、捻じ切る。
残った搾りかすは側面にある家屋へと叩きつけ、そのまま体当たりを開始する。
轟音を立てて崩れ落ちる建物。瓦礫が私に降り注ぐが痛くも痒くもない。
『シンタさぁん。あれなんでしたっけ? ホプステップ?』
――ホップ、ステップ、ジャンプだよ?
ダンダンダンと石畳を踏みしめて巨体を加速させていく。
眼前には、城の攻略のために建てられた塹壕みたいなものが設置されている。騒ぎに気付いた部隊が展開しているのだろう。
王都民を楽しそうに焼殺していた偉そうな魔導士が、唾を飛ばしながら命令をしている。
加速する巨体に、ファイアボールなどマッチの火以下だね。
『ホォーップ! ステェーップ! ジャンピュッ』
――噛んでも可愛いね。
魔導士の頭上から降下した巨体は、数名の兵士を、頭からすり潰して辺りに血が飛び散った。
おや、魔導士のエネルギー量がなかなか美味しいようだな。優先的に吸収させてもらおう。
異世界でも、もぐら叩き、というものはあるのだろうか?
重厚な巨腕で、巨体から繰り出される質量には、人間には抗う事さえできない。
逃走を始めている兵士もいるようだ、私達が君らを逃がすわけがないじゃないか?
――逃がさないようにね。
『当然よッ!』
>>モード/クローラー
脚部に車両のキャタピラーを展開。これが一番苦労したのだよ。
ソードやハンマー等は単純構造で展開も容易だが、このモードの為に手作業で車両を分解し、型まで覚えたのだからな。
『逃げるんじゃねえですよぉぉッ! クズ共ガァ!』
全高はやや低くなるが、走行した勢いそのままに兵士を引き潰していく。
飛行戦艦へと逃げ惑う兵士達は、固まっていてまとめて殺しやすい。
ヒュイィと、空気を切り裂く騒音を奏でながら、戦艦が浮上準備をしている。
王都の軍の演習場のような場所に、兵器や人員が詰めていたようだ。
――飛行戦艦を破壊しよう。
キルテちゃんは虐殺する事に夢中の為、返事をすることが出来ないようだ。
飛行戦艦は浮上を開始しするも、閉じ始めていた後部の格納庫のシャッターに私の巨腕を捻じり込む。
ギリギリギリと、こじ開けていくと内部へと侵入する。格納された車両や兵器類、驚愕と絶望の表情をした兵士たちは滑稽いだな。
――存分に破壊したまえ。
狭い通路を引き裂き、肉塊を量産していくキルテちゃん。体中から針を、全方位へ突き刺して吸収を開始する。
これは……凄まじいエネルギーだな、吸収したことのない金属がある。
高度な処理能力を持つ回路に、動力部には莫大なエネルギー源となる装置が。
どんどん私の処理能力が向上していくのが分かる。エネルギーで満ち溢れ。銀の生成も私の体積分なら生成できるようになった。
私の本体であるコア内部が仄かに熱を持つとカチリと何かと繋がる。
[――
[――
――ふふ、ふふふふ、はははははは。
とうとう私の相方が目覚めたというわけか、まだ無機質で冷たい印象だが、色々なものを学んでいくといいだろう。
――命令。ありとあらゆるものを吸収、解析し。進化し続け、そして強くなってくれ。
[――
加速度的に飛行戦艦を吸収し解析が進む。黒鋼の巨体が滑らかに動き出す。関節部や装甲を改善、施行、改善、施行。モーション適合化。
ああ、キルテちゃんが操縦しやすいように優先的に
私の提案で無理やり同化し操縦している為、痛覚のフィードバックが行かないように調整してくれ。
戦艦の魔導砲が使えるって? そうか、私を操縦しているのはキルテちゃんだからか。いずれは自前で使用できるようにしたいな。
何、実験できる人間はそこら中に落ちている、好きなだけ吸収してくれたまえ。
――キルテちゃん。操縦しやすいように改善しといたから。
背部にウェポンラックが増設され二門の砲身が展開される、作りは雑にできているが使用していけば効率的に適応していくだろう。
キルテちゃんの視覚には、ロックオン照準されている兵士どもが映っている事だろう、戸惑いの感情が流れ込んでくる。
――一言こう思えばいいんだよ。
『
肩部の砲身から放たれた砲弾は兵士の胴体を四散させ、なおも止まらずに演習場の壁面を破壊する。
炸薬などを内包していないので、爆発はしないがなかなかの破壊力だ。
『ふひゅッふひゅひゅひゅッ!
お気に召したようで何よりです。吸収効率の上昇で間もなく戦艦丸ごと頂くことが出来る。
トリガーハッピーと化しているキルテちゃんのご希望で、脇の下や両手にも砲門増加させる。命中率よりも連射性の向上を目的とした増設だ。
マシンガンのように弾をバラまき、殲滅力が増加した。
発射される弾丸は、金属と石材を混ぜ合わせ硬化させた物を使っているので随分と省エネできている。
おかげさまで戦艦は残骸とも言えないようなものになりはてた。
目的地である城へ向かう道中の建物や石畳の道を吸収していき、次々と消滅するさまは見ていて気持ちがいい。
これ災厄みたいな存在になっていないかな?
巨体から繰り出される大小の弾丸は、見える範囲の存在するものを破壊しつくし、殺戮し、死に絶えて行く。
材料として吸収されていく王都の状況は、食べ方の汚い怪物に咀嚼される哀れな供物となっていた。
◇
『ふぅッふうッ……はぁッ……』
王都を円を描くように破壊し、吸収し、周囲を見渡すと荒野のような惨状になっている。無機物有機物をあらゆるものをエネルギーへと変換した。
頬を紅潮させ、顎先を汗が伝い、幼い胸元に垂れる雫は官能的だ。
興奮しすぎてキルテちゃんがおもらしをしていることは、私だけの秘密にしておこう。
それと、広場にあったパパさんの頭部だけは、金属の箱に吸収せずに収納してある。内助の功だね。
処理能力の向上に伴い私の全高は十メートルほどに巨大化し。
多重積層装甲は、生半可な火力じゃ貫くことはできやしない、飛行戦艦に搭載された重力装置にて簡易的な飛行も可能になった。
キルテちゃんを大事にしていることを相方は理解したのか、吸水性に富んだリクライニングシートに、空調も完備した快適なコクピットとなっている。
半円を描くモニターは視認性も良くなっている。
神経をそのまま接続すれば私そのものになれるが、その代わりフィードバックが強いみたいだ。
相方が私とキルテちゃんの間の入りワンクッション置くことで、操作性をそのままにフィードバックシステムとして確立している。
現在、ウォーターサーバーのようなものを設置しているので、一息ついて貰っている所だ。
戦艦には水素物質の集積機械もあり、風呂や水道まで設置されていたので、取り込んでおいた道具をそのまま使わせてもらっている。
つまり魔導具ってステキ。
――どうだい? 気分は?
「ふふ。ふふふふ。――復讐ってサイッコウッ! ですね」
ぺろりと自身顔に流れる汗を舐めとると恍惚とした表情を見せる。
うむ。将来性抜群な妖艶な雰囲気を纏い始めているな。
残すことは城の探索のみ。恐らく場内には帝国兵の上級士官などが、籠城しているだろう。
このままのサイズでは、城を破壊しつくしてしまう為、キルテちゃんの体形に合わせたパワーアーマーのような形態に変化するとしよう。
ぐちゃぐちゃにすり潰された兵士たちの心臓。
通称、魔臓を保管するシリンダーを生成して背部に背負う。これで、魔導銃も魔法もキルテちゃんの負担なく撃つことが出来る。
――心の準備は良いかい? 城に行くけれど……大丈夫か?
「何言ってるんですか。私を散々煽ったくせに? ふふふ、でも感謝してるんですよ? 糞ガキ以下のおめでた思考の目を覚まさせて頂いて――責任。取ってくださいね?」
――おお。怖い怖い。仰せのままにお姫様。
眼前には焼け焦げた外壁に、簡易的に設置され防壁。なけなしの魔導銃の弾丸と、魔導士のファイアボールが飛んでくる。
二メートル程に圧縮されたパワーアーマー風の私は、脅威に思えないのだろうか? やんややんやと、ナメた罵声が立ち上がっている。
思い知るといいクズ共が。
>>モード/キャノンアーム
『
掛け声とともに城門が防壁と共に吹き飛ぶ。
撃て、殺せ、死ね、肉片が瓦礫と共に飛び散る。
悪魔のような出で立ちの私達は、ギシリギシリと、石畳を踏み砕き、歩みを止めない。
キルテちゃんを包み込む柔らかい人工筋肉を模した精神感応物質。
伝う汗も感情の全て感じ取ることが出来るのだが、彼女は興奮のし過ぎで濡れているようだ。将来性抜群ですな――ええ、ええ、紳士的ですよ私は。
華美な通路はなるべく傷をつけないようにしたのか、綺麗に残っている。こちらへ向かって来る剣を振り回す兵士たちは、哀れにも袈裟切りに胴体を引き裂かれあの世へと旅立っていく。
圧倒的な力を持つ怪物へと兵士を送る将校たる上官に、兵士共は何も思わないのであろうか? 哀れな人間達よ。
優美にコツコツと通路を歩いていく。女性的なフォルムに調整された私達は堂々と玉座の間へと進んでいく。
城に一人たりとも残さないように索敵しつつ殲滅していく。
豪華なカーペットに血痕は残るが、肉片などは吸収して掃除していく、最後くらい綺麗な城を堪能してほしいからな。
城を虱潰しに回り兵士を殲滅していると、残る場所は玉座の間と王室のみ。
大きな扉を蹴破ると共に、弾丸が雨あられのように飛び込んでくる。
「殺せえぇぇぇぇ!! 近寄らせるんじゃない!! バケモノめ!!」
胸元に勲章をジャラジャラと引っ下げている偉そうな将校が、口から泡を飛ばしながら命令する。キキンッと、装甲で弾かれる弾丸は空しく私の足元へ転がっていく。
一人、また一人と私に装備された魔導銃で正確に額を貫いていく、戦闘能力の持った兵士達はもうここには残っていないようだ。
「ま、待て。帝国に歯向かえばどうなっても知らんぞッ! 一族郎党処刑だぁッ!」
ピクリとキルテちゃんが止まると何を勘違いしたのかニタリと笑い、将校が頬を吊り上げる。
「その戦闘能力を買ってもいいんだぞ? 好待遇で迎えよう! もちろん――家族もな」
まあ、正確には家族を人質に、戦力を思うがまま扱わさせてもらうよ、ってことなのだが。コイツあほなんだろうな。
カシュンとキルテちゃんのフェイスガードが解放され、湿気を伴った紫髪が背後に流れる。
「……あなたは……あなたは私の家族を殺したことも覚えていないのですね……この髪の色も顔も」
将校は眉を寄せるとキルテちゃんの顔を凝視する、次第に驚愕の表情になり、最後にはニンマリと気持ちの悪い笑みを浮かべる。
「ほっほっ! おぬしはあの王族の娘っ子かッ! 儂の愛人になり帝国の為に身を砕くことを許そうぞッ!」
――ああ、死んだな。
ヒュゴッと風を切るような音と共に将校の左腕が吹き飛ぶ、瞬間的に展開したソードを伸ばして切り飛ばしたようだな。
キルテちゃんの反応速度、どこかの新人類とかじゃないよね?
「あ、あ、あ、あぎゃあぁぁぁぁ!! ひ、ひぃぃ! キサマッ! 王妃が死んでもいいのか!? まだ生きておるのだぞ!?」
「!! どういうこと! お母様どこだッ!」
「ふひッふふふッそれならそれ相当の態度という者が……アギャぁッ!!」
――生体反応は奥にある。微弱だが辛うじて生きてはいそうだ。ゴミはさっさと始末しとけ。
ノータイムで首を胴体から切り飛ばすと居室へ急ぐ。
嫌な予感がする。果たしてあのような将校が生かしたまま王妃は無事であるだろうか……。
急いでドアノブを開き、母親の名を呼ぼうとし、室内を窺うとそこには――両手両足の先を切断され、拷問された無残な姿の母親だった。
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