第二話 青天の霹靂2 大豪邸の老紳士の笑顔には裏がある
確かに自分の姿は酷暑の中で大汗を掻き歩き疲れておりまるで使い古したボロ雑巾の様で大豪邸の来訪者としてはあまりに場違いだ。執事にとって仕える主人が呼びつけたのでなければ追い返したくなる風体をしていることは理解できる。
それでもせっかくの休暇に呼び出されてきたのに歓迎するそぶりのない執事に腹が立ち、ため息をつき返す。
「……ステファン様ですね。お待ちしておりました。旦那様は執務室にいらっしゃいます」
わざとらしい執事のお辞儀に片手を上げて応えると、屋敷の中に足を踏み入れた。
応接室ではなく、執務室ね。
真っ赤な分厚い絨毯が敷かれた廊下を執事の後ろにつづいて歩く。石畳を歩き疲れた足に優しい踏み心地だ。
大きな明かり取りの窓から差し込む光が、吊るされたシャンデリアを煌めかせ、惜しげもなく飾られている高級そうな異国情緒あふれる調度品を照らしている。
ぼんやりと眺めながらも、執務室に通される意味を考える。
仕事の話をするから客扱いはしないという意味なのか、客として迎えるつもりだったが、時間になっても来ない俺に待ちくたびれたという意思表示なのか……
お貴族様らしく意味ありげにこちらを試す様なことしやがって。相変わらず社交界を煮詰めた様な面倒臭いジジイだ。
そんなことを考えているうちに、俺は執務室に到着した。
通された執務室には、一見するだけで高価なのがわかる赤みがかった
部屋の主人である老紳士は祖父でもおかしくない年齢のはずだが、涼しげな
俺をじっと見つめる顔には微笑みをたたえているが、その笑顔は見るからに裏がありそうだった。
「久しぶりだな、ステファン。何年か前に王城で会って以来か? 最近はなにやら王太子から嫌がらせを受けて、こき使われてるんだって?」
呼び出して聞きたいのはそれか……
いや……
思案しなかなか返事をしない俺に老紳士が片目を瞑り目配せをする。茶目っ気を出そうという仕草に苛立ちを覚えた。
「官吏として着任した際に王城でご挨拶させて頂いたのが五年前でございます。また閣下のお言葉に対して僭越な事でございますが、王太子殿下から嫌がらせは受けておりません」
「ほぅ。王太子の婚約者に懸想していたのが王太子にバレて不興を買ったから、見せしめのためにこき使われてると噂に聞いたぞ? こき使われて忙しいからと私の招待を蔑ろにされて非常に悲しいよ」
「……」
目の前で大袈裟な身振りで首をすくめられた俺は半目で目の前の老紳士を見つめた。
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