第38話 月の光の中で

月明かりが部屋を照らすベッドのシーツは青白くそれが反射してリーファの顔がはっきりと見える。

直接あたる光はエルフの金色の髪を銀色に染め

その光沢のある髪は健康的に潤っているリーファの唇のようにつややかに見える。

「お礼 したい」


月明かりがないはずの胸の谷間に影を作り濃淡がハッキリとした美形の顔がトシユキに近づく。

「両親の再会なんて 最後にいいもの見せてもらったよ。

俺さ、元の世界にいたときは人なんて信頼してなかったんだ。

元いた世界は常に競争を求められる世界でさ。

でも 一部の奴らだけは特権を与えられて競争しなくても勝たせてもらえていたんだっぜ・・。」


「それで? 私に 全部 話しす・・」


トシユキは涙を流した。

「ズルいって 思った うぅ・・」


「それで? ゆっくり、いい――話す」


「でも 人は感情で動くものなんだって、バカにしちゃいけないんだって

リーファたちが抱き合っているのを見て思ったんだ。

もし ニンニクマンの力を元の世界へ持っていけたらさ

俺――試験会場でデバフを使って 一人だけ試験に合格してやろうって思ってたんだぜ」


「今は 違うか?」


「ああ 俺は自分が心の底から欲しいと思えるものを探し出して、それに向き合って生きていきたい」


リーファは微笑むと優しく口を開いた

「トシユキ は やり残したこと――いっぱいね」


リーファはトシユキの上にまたがって顔を近づけていたが状態を起こすと一息ついて

じっとトシユキと見つめる。


「今度は――私の話 する」

「ああ 話せよ。でも俺の上から降りてくれないか?

実は お酒のせいで指先一本 動かせないんだ。」


「それ お酒のせい違う。私 トシユキに薬飲ませた」


「なんで そんなことをしたんだ?

ニンニクマンの力を失ったのかを調べたのか?

失ってるって――デバフ、効きまくり あはは」


「違う。里のエルフ、守ってくれる男好き。

でも 結婚したいこと 里に宣言できるのは――、一生で一人の決り」


「それって つまり俺なのか?」


リーファは うなづくとトシユキのズボンを脱がせた。

そして月がどんどん登っていき、光の差し込む角度が変わっていく。

部屋の温度は上がり汗がシーツにしみこんでいった。


グチャグチャになったシーツの上で力尽きた二人は――

目と目を合わせると、そこには新しい絆が出来上がっている事に気が付いた。

リーファは 耳元でささやいた。

帰らないで・・・・・


返事をしようとすると リーファは俺の唇に手を当てて塞いでしまった。

「それはダメ よく 考える」


そう言うとリーファは出て行ってしまったが、俺は眠れるはずもなく

ベッドの上であのときのことが、何度も――何度も蘇っては消えていった。



次の日になって俺は元の世界に通じる転移ポータルのある部屋へ呼び出された。

部屋に着くとすでにアケミは準備を整えて、顔の疲労の顔を浮かべている。

昨日は眠れずにかなり早い時間からこの部屋に来て色々な人たちと別れを惜しんでいたに違いない。

そして 転移ポータルの周辺にはツリーグルにエリーゼと長老の三人がいる。

リーファはいないようだけど・・。

俺に話があるのはこの三人のようだった。


「まずは トシユキよ。この大砲を見てほしい」

丸い何もない部屋には四門4つの大砲が四方に設置されている。

「実は話さねばならぬことがある」


エリーゼが話し始めた。

「実は あなたの体の中には私に封印されていたはずの龍王が封印されているのです」


長老が続きを放した。

「世界樹ともに魔王が生まれ、世界樹が枯れ次の種族が王になるまでの間、エルフの勇者がそれを倒す。

歴史はそう繰り返されてきたのじゃ

しかし ニンニクマンはいなくなり、お前の体の中には龍王がいる。

もしも 龍王が目覚めてしまえば 世界は終わってしまうのじゃ」


ツリーグルが前に出てきた。

「トシユキよ。お前はリーファの事を守ってくれた恩人ではあるのだが

――|ここは大人しく元の世界へ戻ってはくれぬか?《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》――

元の世界は魔法の存在しない世界と聞く、ならば龍王は復活できぬだろう」


ツリーグルが手を上げると大砲が俺の方に向けられた。

アケミは慌てだし、兵士たちに剣を突きつけられたので

「先に行ってるね!」といって転移ポータルを潜ってしまった。


もう ダメじゃないか・・

せっかく――せっかく 見つけたのに。

また 元の世界に戻って学歴だのナースとハーレムだの、くだらない事を言いながら生きていくんだ。

俺は転移ポータルに足を進めた。


そのとき ミリーが叫び兵士たちをなぎ倒していく。

「トシユキ 諦めるな!

お前の顔には迷いが見える!

一緒に旅をした私にはわかるぞ!!」


俺は足を止めて後ろを振り返った。

ツリーグルは大砲に合図を送ろうと身構えるが、そんなことは構わない。


「俺はぁ! リーファが好きだぁぁぁぁぁぁ!!!」


ギギギィィっと出口がわのドアが開く。

そこには リーファの姿があった。


トシユキ!!・・・・


「閉じ込めていたはずなのに 逃げ出すとは悪い子じゃ。大砲を撃て!龍王を復活させるな。撃つのじゃ!!」


ドッカン・・ドッカン!!!


最初に放たれた大砲の玉が地下鉄の電車のようにすごい勢いで俺にぶつかってきた。

すると俺の体から黒いモヤが現れて直撃だけは免れたが勢い余って転移ポータルの中に飛ばされてしまった。


目を開けると怪我はしていないようだ。

そして 元の世界かと思ったが真っ暗な世界にいる。

ふと 上を見上げると赤い光る眼がこちらを見ていた。

「我は 龍王。先ほどオマエを助けたのも我だ。

のう、――取引をしようではないか?」


後ろに扉が現れた。


「もしも お前が我が宿主になると誓うのであれば世界を滅ぼした後に生き残ったカスども全員に呪いをかけ、

お前の自由に動かせる人形にしてやろうではないか?

どうだ?

どんな国でも好きに造るがいいぞ がはははは」


俺はため息をついた。

「龍王よ。お前さ、俺をなめすぎ。じゃあ 帰るから」


「ちょっと待て! なぜ そんなに冷淡れいたんなのだ!!」


「これが異世界のみんなのために、そして愛するリーファのためなんだよ」


トシユキは扉に入ると元の世界へ戻っていきました。

そして時は流れて日本で言うところの秋になった。

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