第36話 強いヤツかかってこい!
黒い転移ポータルは
戻ることのできない片道だけの転移ポータルだったんだ。
しかし それはトシユキとアケミにとっては故郷へと通じる唯一の扉だった。
封印は解かなければいけないがこの旅は終わるのだ。
「トシユキよ 転移ポータルに触れて力を込めてみるのじゃ」
黒く冷たい手触りの石にトシユキは手を触れた。
何前年前に作られたかもわからない、ただの石の塊だ。
ツリーグルは確信に満ちた興味深い顔でトシユキを見ているが両手に力を込めた。
「うぉぉぉ!!」
黒い転移ポータルは白い色へと変わり光を蓄えるとカゲロウの様なもやの中に日本の街並みを映し出した。
トシユキはたまらずカゲロウの中に自分の手を入れるのだが転移ポータルは光を失いながらカゲロウは消えてしまった。
「何が見えたのじゃ? とにかく起動は成功じゃよ」
懐かしい街並みが見えた。
匂いまでは伝わってこなかったがポップコーンの甘い香りや喫茶店で飲んだクリームのたっぷり乗ったラテの味、日曜日をダラダラと過ごした心地のいい日々が脳裏によみがえる。
「俺は確か――元の世界でやり残したことが・・」
ただ こちらの世界でも沢山の人と出会い思い出がある。
旅の中でリーファとのことばかりが脳裏をよぎった。
そして リーファの母親は精霊石の中で眠りについているのだ。
父親とは対面できたといってもこのままでいいのだろうか?
精霊石の前で必死に母の目覚めを訴えかけるリーファの姿がまぶたに浮かんでは消えていった。
そのとき ツリーグルが思いもよらない提案をしてきた。
「トシユキよ。お主は以前に何かの苗木か植物から加護を受けた覚えはないか?
恐らくその植物こそ――新しい時代を担う
研究所のエネルギーにトシユキの力があればおそらく転移ポータルは正しく起動を始めることじゃろう。
じゃが その前に頼みがある――エリーゼを目覚めさせるためにその力を分けてほしい」
魔法エネルギーを精霊石にただ注ぐだけではダメらしく世界樹に代わる命の息吹ともいえる力も同時に注ぐことができるなら転移ポータルが起動したように精霊石も本来の力を発揮できるのだという。
元の世界に戻る前に出来ることがある。
トシユキはそう思った。
「やってやろうじゃないか!」
だが 今日は一日中をここで過ごしたために夕暮れになっていた。
研究所の施設に宿泊することになった。
施設内は近代的で俺たちがいた世界に近いと思う。
シャワーまで付いていて魔力で動いているようだ。
ツリーグルの話ではBランク以上の冒険者を集めて魔力エネルギーを提供してもらう必要があるから時間がかかるという事だった。
「問題はBランク以上の力を持ったものを集めることじゃな。
報酬を倍にしようと思うのじゃが・・それでも質の高いものは時間がかかるじゃろう」
「じゃぁ 街の観光にでも行こうか? いい考えがあるんです」
フカフカのベッドに横になったら すでに元の世界に戻ったのではないかと錯覚するほど懐かしい感覚に襲われた。
ガラガラ
アケミが部屋に入ってきた。
「転移ポータルの事――聞いたわ。
まさか トシユキがカギだったなんてね。
私――
お礼に今日は 添い寝してあげよっか?ふふふ」
「俺がカギになるみたいだけど その前に魔力を集めなくちゃいけない事になったんだ。
・・・・ってやろうと思うけどどう思う?」
「・・・・ならきっとうまくいくと思うわ。私に任せて。ふふふ」
こうして次の日になった。
Bランク以上の冒険者の募集が済むまでは待機することになっている。
今日は休みだ。
街に観光へ行こうと思っていると部屋にリーファが入ってきた。
「トシユキのおかげ デート 今日はデートしてあげる」
リーファはいつもに増してウキウキとした感じで俺の部屋に入ってきた。
しばらく雑談をしたが待ち遠しくてたまらないのだろう。
子供のように同じような話や小さい頃の話を何度もしていた。
そのうち アケミも部屋に入ってきた。
「トシユキ 約束通り、今日は特別に私がデートしてあげるわ」
ウィンクをするアケミにムッとするリーファ。
そしてミリーも部屋に入って来て「・・・そう言うことかならば私も同行しよう」と言い出し
結局4人で街へ行くことになった。
ただいつもと違うのは 右手の腕にはリーファが抱き着き
左手の腕にはアケミが抱き着いている。
俺はボインとコイン――お姉さんとロリっ子の両方を手に入れた。
待ちゆく人達の羨ましいという視線が刺さってマッサージのように気持ちがいい。
アケミが腕を引っ張る
「あれ、可愛い」
リーファも引っ張り返す
「浮気――ダメ 私だけ見て」
俺たちの後をミリーがトコトコと付いてくる。
ローブの隙間からは短剣が チラ――チラっと見える。
俺たちのハーレムの後ろを追いかける 刃物を持ったローブの女の影がより一層俺たちを引き立ててくれた。
俺達は出来るだけ人通りの多いところを歩いた。
アケミに ブドウを「あ~ん」としてもらいながら。
リーファに 汚れた口を拭いてもらいながら。
そして普段は気配を消すのが上手いミリーは逆にアンデットの呪い的オーラを発揮して
俺に片想いをするマイナスの力を周囲に拡散する女性を演じた。
頃合いがいい昼下がりにたまらず街の男たちが話しかけてきた。
「見つけたぞ! キサマ――リーファさんを
「誰だお前ら?羨ましいか? ところで なぜ リーファの名前を知っている?」
「俺だ。兵士採用試験で一緒だっただろう。そう 俺は!バル・フランソーワーズ・ジャンヌ・・5世だ!!」
「ああ・・ あ! バルか?。お前は確か強かったよな。ちょうどいいぞ。よし仲間になれ」
「はぁ? 寝ぼけてないでリーファさんを開放しろ!」
トシユキは頃合いがいいと思ったのか、適当なお立ち台に上がると3人のお芝居が始まった。
元々トシユキたちを羨ましいと思っている男は多いのだが
何といってもこの街は魔物を召喚する能力を有する力を持ったものが多いのに
シャイな男たちが多いため、
もうそれは 気になって――気になってしょうがない。
ミリーが早くトシユキを刺さないかと ワクワクしながら引き寄せられてしまう。
そう――彼らは童貞をこじらせているのだ。
「ねえ トシユキ!。私は強い男が好きなのよ!お友達になりたいな!」
「私 守ってくれる男――好き!お友達 なりたい」
「なんだってぇ!強い男とお友達になりたい?!でも――俺より強いヤツなんているのかなぁ?!
ニンニクマン!とう!」
二人はデレデレとした口調で周囲に聞こえるようにトシユキに話しかけるとトシユキはニンニクマンに変身をした。
「俺を倒せるやつ!みんなまとめてかかってこいよ!ただし 俺に負けたらある計画に協力してもらうぞ!!」
ギルドにはまっとうな方法でBランクまで上り詰めたものがいるかもしれない。
確かにギルドが無機能になった事で研究所に志願する冒険者が増えるかもしれないが
ならず者の街には そこそこ強い魔物を有しているのにもかかわらずDランクはEランクの仕事だけをこなしてその日暮らしをしているニートたちが眠っている。
むっつりな性格であるがゆえに周りと比較してトップ オブザ トップでない事に
心を折ってしまう人がいることを、トシユキは知っているのだ。
さあ――お前たちのはけ口になってやる――かかってこい!
「お前 むかつくぜ!」
「俺も やるぞ!」
「みんながやるなら拙者もさんかするでござるよ」
魔物たちが現れ始めトシユキとの戦闘が始まった。
トシユキは周囲にデバフ効果を付与する
ならば
「
ピーポイントでヒットさせて殴り飛ばす。
弱い連中はそれで十分に倒すことが出来た。
「だぁぁぁ! 次に殴られたいやつは誰だ!」
周囲の熱気はさらに過熱し魔物を召喚できないものまでが参加し始める
ケンカ祭りになってしまったがニンニクマンになっているトシユキに普通の攻撃は通らない。
「バル・フランソーワーズ・ジャンヌ・・5世が相手をしてやろう!俺が勝ったらリーファさんをいただくぜ!
クラーケン召喚!!」
突如現れたイカの化け物とそれを睨みつけるトシユキ。
ビシ! バシ!
「知っていると思うが ニンニクマン状態の俺は多少、潰したり焼いたりしてもいい香りがするだけだぜ!」
「なら 地面にすりつぶしてやるよ!!」
かなり 選別できた強いヤツが残ってる。
ただ 正直言ってだいぶ、きつくなってきた。
でも もう少し――もう少し頑張らないと――絶対に勝たなきゃいけない。
リーファとアケミは最初こそ元気いっぱいだったが思った以上に人が集まってしまったことが誤算だったという事に気付き始めた。
十分に実力のある連中は集まった。
でも 条件としては勝たなければ協力してもらえない。
負けてしまえば、ただのトシユキへの集団リンチである。
二人は肩を寄せ合って抱き合った。
「私 トシユキ 助ける」
「ダメよ トシユキの気持ちを無駄にしちゃダメ」
そうこうしているうちにトシユキの体がニンニクマンから普通の体へと戻ってしまった。
こうなってしまうと肉体は多少強化されているとはいえ、容易く耐えられるものではない。
トシユキの体は少しずつボロボロになっていく。
それでもトシユキは負けない。
「まだ! まだやれるぞ!もっと 強いヤツはいないのかぁ?!かかってこいよ!」
瀕死でフラフラのトシユキに会場はざわめいた。
「アイツ、カッコいいなぁ~ むかつくぜ!」
「女のために頑張ってます。って感じが気に入らない」
「拙者が一番になって 二人とお友達になるでござるよ うっしし」
そのとき、トシユキの前にローブを着た女が立つ。
「ト・トシユキは私がやる! だれにも やらせないんだからねぇ!」
「ミリー・・ナイスだ」
人混みがザワザワする・・
「うつ女が仲間になったぞ」
「今さら辞めれるかよ!」
「俺たちで、うつ女の目も覚ましてやろうぜ」
結局ミリーが参戦したことで
アケミとリーファが近寄りミリーとトシユキはボロボロになりながら笑いあっている。
「お芝居 成功ね」
「トシユキ 心配 した」
「あははは 危なかったぜ。だけど ミリーまでボロボロにしてしまって、ハーレム役のほうがよかったんじゃないか?」
「ハ・ハーレム? よく考えてみればお前たちハーレムではないか?? ぷひゅ~」
ミリーは真っ赤になって倒れこんでしまった。
俺も倒れこむとアケミとリーファが俺の顔を覗き込んできたので後は頼むといい残して意識を失った。
倒した中でも強い奴らに声をかければ研究所のエネルギーになってくれることだろう。
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