第26話 2人っきりにするなよ!?

 次の日。目が覚めた俺は眠たい目を擦りながらスマホの画面を見る。


(なんだよ、まだ5時じゃん)


 どうりでまだ寝足りないわけだ。なんでこんな時間に起きるかなー。眠たい目を擦りながら布団から出る。ぼんやりと窓の外を眺めていると頭の片隅に昨日の光景が蘇ってきた。


(夢じゃないんだよな)


 頬を触りながら確かめる。忘れられない感触。夢でもなんでもない。顔に熱が帯びていくのを感じて冷ますように慌てて首を振る。


 部屋を見渡せばまだみんな寝ているようだ。自分でもデカい音量だと思うんだけどあれで起きないとは。彼らの家族は苦労してるだろうな。


 朝食は7時からだからまだ1時間も余裕がある。自宅ならゲームや漫画があるため1時間程度なら簡単に過ごすことができるが、あいにくここにはそのような娯楽物はない。スマホは使えるものの動画なんて見ればすぐにデータ制限のメールが届くから我慢するしかない。


 しょうがない。2度寝するとしますか。



 ○


「いただきます」


 その後、テーブル席にも関わらず1人での朝食。自ら作った昨日の昼間とは違い、朝食に関してはバイキングが用意されている。座る箇所に関しても自由。結局俺は既に出来上がったグループに突入することができずにこうして1つのテーブルを占領しているわけだ。


 思えばこうしてゆっくり1人で過ごすのも久しぶりだ。ノアさんが転校してきてから話すようになった小宮さんから絡まれることが多くなったしな。


「あっ、あそこにいた!」


 平穏な時は突如として終了した。


「邪魔するぞ」


(は?)


 俺が許可を取る前に正面に座る番犬。


「もう! こんなところにいたの!? 一緒に食べるっていったのに!」


 ドカッとこれでもかと思うくらいの料理が盛られたプレートを2枚置き、ルイスの隣に座る小宮さん。


 いや、聞いてない。ていうか1人でそれ全部食うつもりなのか。


「ごめんなさい。一緒にいいですか?」

「あ、ああ。いいけど」


 3人の中で唯一許可をとったノアさんが俺の隣に座った。料理の盛り方に育ちを感じる。主食、副菜、ご飯、汁物。小宮さんに見習ってほしいもんだ。


「じゃあ、いっただきまーす!」

「お前はそれだけでいいのか?」


 ルイスはトーストとコーヒーだけ。せっかくのバイキングなんだからもっと楽しめよ。


「ふふ。私の朝食は毎日これと決まっている。知っているか? 朝にコーヒーを飲むと──」


 勝手に講釈たれてろ。俺は無視するけどな。朝食を楽しんでいる時に同じクラスの女子が1人俺たちのところに来た。名前は知らない。小宮さんの友達だと思うんだけど。


「ねえ、美春! これから焼きたてのパンが出るって。取りに行かない?」

「な、なんですとっ!?ちょっと待って、すぐ片付けるから!」

「すぐ片付けるって、まだ全然残って──」


 勢いよく自分がとってきた料理を口の中に放り込む。さっきまで大量にあったはずの食べ物が次々と無くなり、あっという間に姿を消した。


(す、すげぇ……)


 ビジュアルもいいんだし、小宮さんはフードファイターになった方がいい。朝からそれだけ食えるのは一種の才能だ。


「とりあえずご馳走様。それじゃあ、ちょっと行ってくるね!」


 満面の笑みを向けてキャッキャ言いながら行ってしまった。


「ルイスくーん! 一緒に食べないー?」


 小宮さんが席を立ってから数分も経たないうちに少し離れた女子テーブルからお呼びのようだ。


「お呼びのようだな。少し席を外す」

「ちょっと待った!」


 2人っきりは気まずい。マジでやばい。昨日あんなことがあったんだぜ? 流石に何話していいのかわかんないって。俺を置いていくなよ! 頼む! 今回限りはそばにいてくれ!


「なんだ?」

「いいのか? ノアさんのそばから離れて」


 こう言えばボディーガードのプライドが疼くだろう。主人に危険な可能性があるうちは一緒にいた方がいいに決まってるからな。


「ふむ。流石にここでお嬢を襲う輩はいないだろう。安心しろ、そう長居はしない。すぐに戻るつもりだ」

「いや、その……」

「なんだ? お嬢と2人で何か問題でもあるのか?」

「まあ、問題大アリって感じ?」


はぁ、とため息をついて俺を見る番犬の目はどこか呆れたようなものだ。そんな目で見るなよ。


「わかった」


お! 交渉が上手くいったみたいだな。助かったー。これで──


「……詳しい話は後で聞く。では、しばしの間失礼する」


(ちょっ、おまっ! 話が違うって!)


 そう言ってそそくさと女子のテーブルに行ってしまった。キャーキャー言われながら話す会話は楽しいだろうな。俺は経験したことないけど。


 なんで今日に限ってあいつらは俺たちを2人っきりにするんだよ!?

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