第12話 サユリ

「初めまして。いつもイーサン町長にはお世話になっています」


「まあ、お世話になっているのはイーサンの方ですわ」


非常におしとやかな感じのする人だ。単刀直入に聞いてみた。


「来歴簿に盗賊の女首領と書かれてたのですが、誤認逮捕だったようですね。どうして間違われちゃったんですか?」


サユリさんはある貴族のメイドとして働いていたそうだが、主人から再三関係を迫られていて困っていたという。それで、思い切って奥様、つまり、正妻に相談したところ、屋敷から逃げ出せるように手配してくれたらしいのだが、それが盗賊だったらしい。


その奥様の名前を聞いて、すべて分かったような気がした。その奥様は、リチャードの母のセリナ妃の妹で、リチャードの叔母にあたる人なのだ。いや、しかし、相談する相手を思いっきり間違えているように思うが、サユリさん、何だか天然な人なのだ。


すぐに盗賊のアジトに警察が踏み込んできて、そのとき、客人待遇で盗賊の首領の横に座っていたサユリさんが、首領の身分を肩代わりさせられたらしい。その後、盗賊たち全員が口裏を合わせて首領だと証言したため、有罪になってしまったようだ。それで、首領のサユリさんだけ島流しになったという。


「それ、完全に仕組まれてますね」


「ええ、イーサンからも言われました」


「その奥様はセレナ妃の妹です。私の兄のリチャードの叔母に当たります」


セレナ妃の名前を聞いてサーシャさんが反応した


「セレナ妃の犠牲者がここにも……」


サーシャさんもセレナ妃に嵌められて、ここに来ている。


だが、少し腑に落ちない点がある。先ほどのレベッカもここにいるサユリも、かなりの美貌だ。レンガ島は外から見れば、囚人たちの島で治安が悪いところ、というイメージがある。そんな島にこんな美しい2人を無防備で送り出すなんて、計画としてずさんすぎる。


「レベッカさんとはお知り合いですか?」


カオリさんがえっという表情をした。


「はい、いっしょにこの島に護送されてきました」


後で聞いたのだが、絶世の美女2人が同時に送られてきて、島は大いに沸いたらしい。


「僕たちは5人でしたが、カオリさんたちは何人で護送されてきたのですか?」


「私たちも5人です」


俺はピンときた。来歴簿はアルファベット順で記載されていて、島に来た順番はわからない。サユリさんとレベッカは


レオン・コーナン

サイラス・レイン

シンジ・ルーベース


の3人に護衛されて来たのではないだろうか。


「ほかの3人の人たちは優しかったですか?」


「ええ、とても。今もすごく親身になって、いろいろと助けてくださいます」


「どんな方ですか?」


「レオン、サイラス、シンジの3名です。3人とも元は王宮の衛兵だったそうです。そうそう、養蚕事業部に異動を希望しています。アランさん、よろしくしてあげてください」


そういうことか。この3人は兄たちの配下だな。2人の女性が襲われたりしないように護衛をつけたのか。


「わかりました。ところで、イーサン町長とはいつご結婚されたのですか?」


サユリさんの町長との結婚は計画の一部なのだろうか?


「半年ほど前です。さっきの3人から紹介されまして、とても良い人だったので一緒になりました」


イーサンは町長になって2年目だ。町長を狙ったのか?


それにしても、レベッカからもサユリからも俺への敵意が全く感じられない。俺の信頼を勝ち取ってから仕掛けようとしているのだろうか。


「そうなのですね。そういえば、サーシャさんからサユリさんが私と話をしたいと聞きましたが、どんなご用でしょうか」


サユリさんが何だかもじもじし始めた。


「その、私の2番目の夫になっていただけないかと思いまして……」


やはりそう来たか。でも、何だかサユリさんのイメージに合わないように思う。


「すいません。お気持ちは嬉しいのですが、私には婚約者がおりまして、近々島に招く予定なのです」


サユリさんはとても恥ずかしそうだ。


「そうでしたか。そうとは知らず、図々しいお願いをしてしまい、申し訳ございませんでした」


「いいえ、サユリさんのような美しい人から求婚されて、舞い上がってしまいました。差し支えなければ、こんな私に声かけてくれた理由を教えていただけますか」


サユリさんは少し躊躇していたようだが、思い切って話し出した。

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