第7話 事業部長就任

流刑ということで、かなり厳しい生活を覚悟していたのだが、ふたを開けてみれば、温泉付きの一軒家に住み、職業の自由があった。


ガリレイ神父はこの町の教会の神父に応募したという。今の神父が老齢で、後任を探していたとのことだった。神父も人気のない職業なのだという。


サーシャさんは婦人会というのに入会するそうだ。島には女性が2割しかないため、非常に大切にされていて、婦人会に入会すれば、原則として働く必要はないとのことだ。何をする会なのかは追って教えてくれることになっている。


トムとベンは大工に応募したらしい。島の人口は右上がりに伸びているらしく、どんどん新築の家が必要だということだ。レンガの材料がいくらでも採れるらしく、町のはずれの窯で毎日大量のレンガが生産されているとのことだ。


さて、俺は町議会へと向かった。町議員は俺を入れて5人だった。町の人口は5000人だが、人口比はさておき、絶対数が少ないように思う。


議長は町長で、秘書のアンディが書記、そして5人の町議員で会議が始まった。


最初に俺を町長が簡単に紹介した。囚人の町ということで、何をしてこの町に来たのか、というのは説明の義務があるらしい。


いつものように祝福1人という話をしたのだが、1人のダンディな壮年の男が反応してきた。


「ひょっとして、アレンは王族ですか?」


すぐに町長が止めに入る。


「グリムさん、マナー違反ですよ。何をやったかは公表を義務付けてますが、身分の詮索はいけません」


「失礼しました。神の祝福が1人だけだからという理由で島送りになるなんて、王族以外は考えられないので、つい聞いてしまった。アレン、すいませんでした」


壮年の先輩が俺のような子供に頭を下げて来るので、誠意をもって話したくなった。


「いいえ、気になさらないでください。確かに私は王族でした。第五王子でしたが、身分ははく奪され、今は平民です」


会議室がざわつき始めた。カイザーの息子か、という言葉が聞こえてくる。


「アレン、この島には政治犯が多く、王族を目の敵にしているものも多いのです。身分は隠しておいた方がよいかもしれません」


町長のイーサンが助言をしてくれたが、俺は別の考えを持っていた。


「私はカイザーの子ではないそうです。王子であれば3人以上の神の祝福があるはずで、そのために、母は不義密通の罪で問答無用で即死罪になりました。私も弁明の機会なく、島送りです。兄たちはまだ私を殺そうと虎視眈々と狙っています。私も王族を深く恨んでいますので、目の敵にしている人とは仲良くなれそうです」


「そうですか。島に慣れてくれば、また考えも変わるかもしれません。おっと、会議を始めましょう」


イーサンはそう言って会議に話を戻した。


会議の内容は公共事業についてである。


レンガの作成

家屋の建築とメンテ

畑の開墾

漁船の造船とメンテ

養蚕と生糸の製糸


が、町が運営実施している事業だ。


衣食住に注力していることがよく分かる。


財源はというと、税金ではない。何とこの島は税金がないのだ。理由は計算が大変だし、公平に課税できそうもないからだ。


市場のテナント料、畑の利用料、漁船の使用料、生糸の販売料のほか、塩と酒の専売などを財源としている。


会議はそれぞれの公共事業を担当するいわば事業部長ともいうべき町議が、予実報告して問題点などを社長である町長に報告する形式だった。


俺は2つの事業を担当しているグリムさんから、1つ事業を継承することになっていた。


「アレン、畑の開墾と養蚕のどちらかを引き継いでくれ」


俺は考えるフリをして、急いで母さんに相談する。


(母さん、俺にとってどっちが得意かルナに急いで聞いてきてくれるかな)


(いいわよ)


少し経ってから母さんから答えを聞いた。


「では、養蚕を継ぎます」


ルナによるとどちらも得意とのことだったが、俺は前世で養蚕王になったことがあったらしい。そのときの記憶を戻してもらおう。


次の会議は1ヶ月後だ。でも、ルナにどうやって記憶を戻してもらえるんだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る