Crimson World Mars
福田牛涎
第1話 転生
【貴方の人生は終了しました】
(…俺は…死んだ…のか…)
(そうか…残念…だな…もう一度…彼に…あいつにも…会いた…かった…なぁ…)
【そんな貴方に朗報です】
(…幻聴か?)
【いえいえ、幻聴じゃありませんよ?】
(…じゃあ、君は誰なんだい?)
【目を開けて、ご覧になられたら、どうですか?】
(…いや、俺は死んだ…ん?)
何故、俺は意識がまだあるんだ?
そう思い、目を開ける。
………。
頭を左右に振りながら辺りを見回してみたが、少なくとも視界に光源のようなものは映らない、つまりは何も見えない。
ただ、背中にひんやりとした硬い感触があり、足の裏には何も感じない。
仰向けに寝ている、というやつだ。
腕を支えに上半身を上げ、胡坐をかき、頭をぽりぽりと掻いた。
「やはり、幻聴か…」
【いえいえ、だから幻聴じゃないですって】
その声と同時に、目の前が明るくなると、小さな妖精のような少女が現れた。
身長は30~40cm程だろうか、薄緑色の癖っ毛のある短髪に、少しだけ主張している胸の膨らみ。
髪と同じ色の可愛らしい服装だが、スカートはかなり短め、背中には葉っぱのような羽を、左右二枚ずつ生やしていた。
(…なんか、昔所有していた、大人のおもちゃのオ〇〇妖精に似ているな…)
そう思った瞬間、彼女は少し体を震わせた。
顔も少し赤みを増している。
「あー、今えっちな事を想像しましたね?」
「失礼しちゃいます、ぷんぷん」
唇を前に突き出しながら、非難の言葉を投げかけるが、それ程怒っているようには見えない。
「それはそうと、俺は死んでいないのか?」
「はい、死にましたよ」
…。
…。
(死んでんじゃん)
再び寝転がって、不貞寝をする様に目を閉じようとした。
「ちょーっと、待ったーっ!」
その声の主、制止しようとする【〇ナ〇妖精】の方に目をやった。
「あ、その【〇〇ホ妖精】は止めて下さい、ホント」
右手の掌を、押し出すような仕草で、そう答えた。
「そういえば、自己紹介をしていませんでしたね」
「私の名は【りょく】以後お見知りおきを」
スカートを両手でつまみ上げる仕草と、お辞儀をしながら、そう名乗った。
本当にスカートをつまみ上げると、見えてしまうからな。
「それはそうと、気付きませんか?」
「体とか色々」
そう言われて顔を触ってみると、つるつるすべすべ、しわが全くなかった。
腕、胸、足、どれもこれも、全盛期のように筋肉質(というほどでもないが)程よく筋肉が付いている。
(若返った?)
「はい、大体20歳前後くらいには」
凄い…もしかして…異世界転生ってやつか?
糞飽きる程、見てきた、あの、異世界転生が自分の元にもやってくるとは。
「あ、言いにくいのですが、異世界転生ではないですよ?」
!?
どういうこと?
「まぁ、似たようなものですし、気にしないで下さい」
凄く気になるのだが。
「ともかく」
彼女は、右腕とその掌を目一杯広げた。
「じゃじゃーん」
「これが【CWM転生特典ルーレット】です!」
「CWM?」
「あ、そこは気にしなくても大丈夫ですよー」
「ささ、はい、これ投げるダーツですよー」
彼女は、どこから取り出したのか、自身の背丈より少し小さいダーツを、両手いっぱいに持って渡してきた。
「あ、ちなみに一回きりなのと、外したら何も貰えないので、慎重に投げてくださいね」
人差し指だけ真っ直ぐ伸ばした右手を、自身の顔の前まで持って来て、そう答えた。
「試射は出来るの?」
「出来ませんよ」
即答だった。
「因みに【CWM転生特典】はこうなってます」
渡された紙には、以下のように書かれていた。
------------------------------------
聖暦12042年7月3日
一色蒼治良 様
有限会社CWM転生事務センター
所長 ニェボルニェカ・D・イルカナトワ
CWM転生特典について
CWM転生特典ルーレットにおける各特典の確率(ルーレットそのものを外した場合は、この限りではない)は以下のとおりです。
記
聖剣エクスカリバー 1%
魔剣ディアブル 1%
精霊剣プリズラーク 1%
聖魔法の全てを習得 1%
闇魔法の全てを習得 1%
精霊魔法の全てを習得 1%
勇者装備セット 1%
完全回復術札100枚セット 3%
中級装備セット 5%
初心者装備セット 30%
ハズレ(ティッシュ) 55%
以上
※各装備につきましては、装備可能である事を保証するものではありません。
※各魔法につきましては、魔力保有量によっては、最悪使用した瞬間に、命を落とす危険があります。
※その他、如何なる不都合が生じた場合も補償は致しません。
------------------------------------
(ルーレット外したらハズレなのに、中にもハズレがあるのかよ、それも55%も)
「どうですか?ワクワクしますよね?」
彼女は、体を少し前のめりして脇を締め、握りしめた両手の拳を、自身の胸の前まで上げながら、そう話す。
(確かにそうだな、他人事なら)
目を閉じて、口をほんの少しだけ【への字】にしながら、そう思った。
「あ、あと裏面に確認書兼契約書がありますので、署名をお願いしますね」
そう言われて裏面を向けると、以下のように書かれていた。
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確認書兼契約書
CWM転生特典について、書面にて記述内容を正しく認識、同意の上、有限会社CWM転生事務センターと契約いたします。
聖暦12042年7月3日
氏名:
指印:
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色々、突っ込みたいところはあるが、とりあえず流すことにした。
「名前と母印で良いのかな?」
「でも、書く物も、朱肉無いけど」
「あ、氏名は指先でなぞれば書けますし、指印は紙に付けるだけで指紋を読み取るので、大丈夫ですよ」
(物はローテクなのに、中身はハイテクなんだな)
(この紙に、一体どんな技術が組み込まれているんだ)
「後は他にも、目と顔の情報や、触れた手の分泌物から遺伝子情報も読み取ってますけどね」
「あ、いけない、これは秘密事項でした」
舌を出して、左目を閉じた彼女は、拳を作った右手を頭上に当てた。
(…聞かなかったことにしよう)
さっと、右手の人差し指の先で名前をなぞり、その人差し指で紙面を押した。
その瞬間、紙全体が光を帯び辺り一帯を照らす。
(眩しい)
しかし、程なく、その光も消え、再び、ただの紙へと戻った。
「はい、これで契約完了です」
「それでは、こちらへどうぞー」
彼女は、左腕を大きく広げ、腕いっぱいにルーレットの方を指す。
「あ、下の線からはみ出ないで下さいねー」
(細かいな…)
(さて…と)
投げる位置からルーレットまでは概ね3m、ルーレット自体の大きさは、直径1mくらい。
余程の事がない限り、外れることは無さそうだ。
後は、ハズレ以外に当たればいい。
「そろそろ、良いですか~?」
「あぁ、よろしく頼む」
「じゃあ、回します」
彼女は、腕を頭上いっぱいに上げてルーレットを掴んだ両の手を、力いっぱいに振り下ろす。
ルーレットが、勢いよく回り始めた。
俺は、力の加減を考えながら、ルーレットの中心部に狙いを定め、投げる。
少し弧を描いた矢の先が、ルーレットに突き刺さった。
「よし!」
思わず声が出た。
「やりましたねぇ」
彼女は、服のどこから出したのか、リモコンのような装置をルーレットに向けると、ボタンを押した。
ぴ。
と、という音と共に、ルーレットの回転が少しずつ弱まっていく。
「っていうか、リモコンで操作出来るの!?」
「はい、出来ますよぉ」
「じゃあ、なんで最初手動だったの?」
「いやぁ、盛り上がるかなぁ、と思って」
満面に笑みで答えた。
(まぁ、確かにね)
その間に、ルーレットが完全に止まった為、見える位置まで歩いていくことにした。
近づくにつれ、一番狭い枠と明らかにハズレの枠と分かる箇所の、境界線上付近に止まっていた。
「どっちに止まったんでしょうかね?」
好奇心旺盛な顔をして聞いてくる。
「とりあえず、ハズレじゃない方がいいな」
そして、間近くまで来た時、それは見えた。
【精霊剣プリズラーク】
(うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!)
(やったどーっ!)
と、表向きは平常心を装いつつ、心の中で叫んだ。
「やりましたねぇ」
「それでは」
彼女は両腕をいっぱいに広げ、何やら呪文を唱えると、大きな光の玉が現れる。
それは、やがて剣の形へを姿を変えると、程なく光は消え、そこには立派な剣が残された。
「はい【精霊剣プリズラーク】をどうぞ!」
「ああ」
精霊剣を手に取り、両手で持ち上げる。
軽そうな剣ではあったが、想像以上に軽かった。
500gも無いかもしれない。
これだけ軽ければ、自由自在に操れる…はず…なのだが…。
縦・横・斜め、と試しに振ってみたが、全く振る事が出来ない。
まるで、物理的に何かの圧力を受けているかのようだ。
「あちゃー、これは装備出来ないってやつですね」
「まぁ、仕方ないですよね、何しろ聖剣に匹敵する精霊剣ですから」
「でも、ちゃんと契約書に書いていましたし、サインもされたので仕方ないですね」
のほほん、と笑う彼女に、苦笑いするしかなかった。
「とりあえず、苦情は何時か出会う…かも知れない【有限会社CWM転生事務センター所長】にでも言ってください」
「あ、あと、こちらが転生先に関する資料です」
渡されたのは、A4サイズ1枚の紙。
「それじゃあ、ご武運をお祈り致しております」
彼女は、しっかりと伸ばした右の指先を、額の右端に乗せ、敬礼を決めた。
それと同時に世界は白に染まり始め、そして程なく闇に染まり、俺の意識も遠のいていった。
………。
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