第18話 インドと海

 俺の名前は奥洲天成。

 COVID-19も収束してきたのでインドに旅行中、暴走した象に体当たりされて死んでしまった。奴が「怒ったぞう」と叫んでいたかは定かではない。


『のっけから寒いダジャレはやめんか』

 おっと、女神が出場停止中だから、代わりの切れ者神様が登場だ。

『全く……、どこに転生したいのだ?』

「せっかくだから、インドに転生したいな。史実のインドは途中からハチャメチャになっているが、元々は四大文明発祥の地だ。ポテンシャルは高いはずだ」

『ふむ。分かった。ならば、おまえをインドのナーヤカに転生させてやろう』


 おお! ナーヤカ!

 と言っても、多分分からないだろう。南インドの貴族階層のことだ。

 南インドは北インドと違って、米が主食なので人口が増えやすい。シュリーヴィジャヤ王国のように100万の軍勢を抱えていたと言われる国も存在しているほどだ。


 俺はそんな南インドの貴族になった。

 歴史を知る俺には分かる。インドの大失敗の原因は、ポルトガルをはじめとした大航海時代での航海者を受け入れ過ぎたということだ。奴らと来たら強盗みたいなものだからな。キリスト教徒以外からだったら何をしてもいい、とばかりに好き放題に振る舞い、貴重品も香辛料も奪い放題だったからな。


 俺の目が黒いうちはそんな好き勝手なことはさせないぜ!


 ということで、俺は宮廷に出かけていって、海軍の創設を説いた。

 皇帝は胡散臭いものを見るような顔をしている。

「そんなものは必要あるまい」

「いや、ですが、作らないと後々この大陸が余所者に占領されてしまいますよ」

「馬鹿なことを。この大陸には何でもあるではないか。宝石も、食糧も、鉱石も」

「ぐっ」


 俺はこの時悟った。何故インドが歴史上、途中で脱落してしまったのか。

 結局、国内に何でもあるから、完全に内向きになってしまったのだ。国内で全部解決するから、外に行こうという気にならない。

 海の向こうに出かけるといっても、船が難破する可能性もある。危険を冒して外に行く必然性も感じない。


 だから、大航海時代で来た連中が港を占領しても、「海なんか好きに使わせてやればいいんだ」ということになってしまったのだ。

 気づいた時には戦力で完全に上回られていた。しかも、国内に何でもあると思っているから、その中でシェアを占めることに熱心になり、国内での争いが大きくなっていた。


 かくしてインドは植民地となってしまったというわけだ。



"神の一言"

 近世までの中国も似たようなところがあったと言えるな。

 イギリスが貿易を求めた時に、『天朝には何でもあるが、まあ、そちらがどうしてもというのなら多少おこぼれをやってもいい』みたいな上から目線でいるうちにアヘンやら何やらを国内に流通させられてしまったということがあった。


 過ぎたるは猶及ばざるが如し、というが、恵まれすぎるのは国にとっても良くないことなのかもしれない。

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