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朝食を済ませた私は、ノルギスお父様がいる王の間へ赴いた。
いなくてもすぐ側にある執務室にいるだろうから、そちらに行けばいいと思っていたけど、玉座に腰を下ろしていた。傍らにはアデル先生とルシウスの姿もある。たぶん、今後の話を詰めているのだと思う。まともな戦略立案はその三人しかできないから。
「おはようございます、お父様」
「おお、ノイン。起きたか」
私が王の間に現れたことにようやく気づいた三人がこちらに顔を向ける。ノルギスお父様は顔を綻ばせて立ち上がり、両手を広げた。私はそこにすっぽり収まる。
「お父様、大好きよ」
「そうかそうか。ありがとう。わしも大事に思っておるよ」
これもまた、私が提案した朝の挨拶。これまでの分を取り返すつもりで愛情表現を重ねる。こういうことの継続が生きる活力に繋がると私は信じてる。
ノルギスお父様とのハグが済んだら、次はルシウスとのハグ。
「おはよう、ルシウス」
「おはよう、ノイン。よく眠れた?」
「ええ、お城まで連れ帰ってくれてありがとう」
会話が済んだら、今度はアデル先生。本当は順序が逆なんだけど、親族と婚約者とのハグを優先。アデル先生には簡略化した一礼だけで済ませる。
「おはようございます、アデル先生」
「おはようございます。ノイン王女。ルシウスから報告は聞いています。今回は貴重な情報をありがとうございました。ただ、無茶は感心しませんよ」
「はい、気をつけます」
苦笑して答えたとき、近衛がざわめいた。ノルギスお父様も、ルシウスもアデル先生までが驚いた顔をする。振り返ると、アリーシャとアスラが赤絨毯の上を歩いて来ていた。
アスラは兵士が着用するチュニックとズボンに、皮の鎧を身に着けていた。大剣を背負い、黒い狼男の戦士といった感じに仕上がっている。うん、素敵。
アリーシャとアスラが、私たちから五メートルほど離れたところで跪く。そこにルシウスが駆け寄り、アスラと向かい合う。
「アスラ、なのかい?」
「そうだ。ルシウス」
「話せるの⁉」
「ああ、話せるんだ」
ルシウスが「すごいや!」と嬉しそうに笑い声を上げ、アスラに抱きつく。アスラはそれを笑顔で受け入れ、笑い声を響かせた。
「ノイン、あの者は……?」
「話の通りです。私の仲間、アスラがダークアヌビスに進化したんです」
「なんと……! 言葉まで通じるとは!」
ノルギスお父様とアデル先生もアスラに歩み寄る。
「アスラ、アリーシャも楽にせい」
アリーシャとアスラが立ち上がる。ノルギスお父様とアスラは背丈が同じくらい。体格も似ていて、精悍なところも似ている。
「うむ、良い面構えだ」
「お褒めに預かり光栄です。我が主の父君」
「どうだ、後で一戦」
「人の道具には不慣れですが、せっかくのお誘いですのでお受けします」
「では、私も」
「アデル殿には苦渋を舐めさせられているからな、是非ともお願いしたい」
結局、今後の話は模擬戦が済んでからってことになったみたい。煮詰まってたのかもしれないし、リフレッシュになるんならそれもいいかもね。
その後、訓練場に移って総当たり戦が行われた。結果はノルギスお父様が全勝、アデル先生が一勝。アスラは全敗だった。でもそれは、まだ武器の扱いと体の動かし方に慣れていないのが敗因ってだけで、身体能力は一番高かった。
アスラは悔しがっていたけど、その戦力が大いに期待できると、ノルギスお父様とアデル先生は喜んでいた。ルシウスはもうアスラに乗れないことを残念がっていたけど、肩を並べて戦えるって分かって少し気が晴れたみたいだった。
「男の人って、単純だよね」
「ふふふ、そうかもしれませんね」
アリーシャとそんな会話をしながら、私は楽しげに話す男たちの姿を目に焼き付けた。いつか失われてしまったときに、後悔することのないように。
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