12

 

「歓迎できないことって?」と私は訊いた。さっきから訊き返してばかりいる。

 説明を求めると、ルシウスは順を追って話してくれた。


「人が亡くなった場合、どうしてるかは知ってる?」


「うん。土葬すると疫病が流行ったり、グールになる可能性があるから、遺体は必ず火葬しなきゃいけないって、ロディから聞いた」


「そう。だけど、火魔法だけだと難しいから、必ず油や木なんかで補助するんだ。労力もそうだけど、かなりの物が必要になるんだよ。お金もね」


「ああ、そっか。この洞窟に運べば何も要らないんだ」


「そういうこと。その分、手間も費用も掛からなくなるから、暮らしが楽になる。魔物の餌にすることで、すべての問題が片付くし、都合が良かったんだろうね」


 それが、いつから行われているかは分からないけれど、ウインドゼリーフィッシュの繁殖に利用されている可能性があるとルシウスは言う。

 ウインドゼリーフィッシュは他の魔物の餌になる。繁殖力旺盛で、弱く、抵抗される心配のない魔物。危険なく糧にすることができる存在だと言える。


「この洞窟では、魔物の大発生は起きてない。それはつまり、管理している者がいるってことだ。僕が以前ここに入ったときより、魔物の数も極端に少ない。避けてたとはいえ、レイス一体としか遭遇しないっていうのは異常だと思ってたんだ」


「マーマンが、ウインドゼリーフィッシュを家畜にして管理してるってこと? 他の魔物から守ったり、餌をやったりして?」


「そうだと思う。今は必要量と供給量の釣り合いが取れてるんだろうけど、それが崩れると、家畜の飼料にする為に人を襲いに出てくるようになるに違いないよ」


 二帝国同盟と睨み合っている情勢下で、マーマンの軍勢が背後から押し寄せるというのは、均衡を崩すきっかけになり得るとルシウスは言う。軍勢というのは大袈裟な表現だと思ったけれど、知恵がある魔物には、必ず統率する上位種が存在するらしい。


「上位種……レッドキャップが、ゴブリンを引き連れてたみたいな感じ?」


「うん。でも規模が違う。マーマンキングやジェネラルが、海から指示を出してる可能性がある。南方の海沿いは大きな被害が出ているかもしれない。すぐに伝えないと」


「お国の一大事って訳ね。分かったわ。でも、戻って。さっきの場所に」


《ノイン様⁉》


 私の言葉は、普通に話しても伝えたいという思いがあれば魔物にも伝わる。アスラが反応したのはそのせい。昔、シクレアにやったときは、口調が辿々しくて不思議がられたっけ。

 アスラは私が戻るって言ったことに驚いたみたいだったけど、ルシウスは苦笑しただけだった。私がそう言うって予期してたみたいね。流石、私の皇子様。理解があるわ。

 

 

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