第73話
「陽夏、今敵がどこにいるか分かるか?」
「正確な位置は分かんないけど…………多分攻撃をしてきたら分かると思う。」
俺と陽夏は矢が飛んできた方向に刀を構えはするが、相手の姿は見えない。
十中八九もうさっきいた位置からは離れているだろう。
あの矢の威力は今までのゴブリンとは比べ物にならないほど強く、毒まであった。
少なくともゴブリンでは無いだろう。
今までの事をふまえると、この矢はあの女の人が射って来たものだろう。
次の矢は中々放たれない。
相手は姿が見えないというアドバンテージを十分に活かしてじっくりと様子を伺っているのだろう。
「…………どうする、一旦引くか?」
俺のその問いに陽夏は首を振る。
「さっき登ってきた階段からは遠いから、もういっその事そのまま進んじゃった方がいいかもしれないわ…………。」
確かに今なら先に進む階段の方が近い。
ここで敵を倒さずに放っておくと何が起こるか分からないが、それでも無理をして倒す方がリスクが高い。
「分かった、1回あの階段を登ろう。」
「…………待って、その前に攻撃が来るわ!」
陽夏がそう言った瞬間、俺は身構えるが、攻撃されたのは俺ではなく陽夏だった。
矢と陽夏の刀がぶつかり、矢の進行方向を変える。
相変わらずの陽夏の絶技に思わず息を飲むが、数瞬経たないうちに俺の方にも矢が飛んできた。
「ぐうっ!?」
俺も陽夏の様に黒鉄を使い矢を弾こうと思ったが、思うようにいかず矢が肩に突き刺さる。
あまりの痛みに黒鉄を落としそうになるが、必死に耐え肩を治す。
傷が治り、一息ついたのもつかの間、またすぐに俺に向かって矢が飛んでくる。
く、こいつ、俺が防げないと分かって畳み掛けてきやがる。
「そこだ!」
陽夏が矢の放たれる方向へと剣撃を放つ。
その時、白いモヤの様なものがその場を動くのが見えた。
あれだ。
はっきりとは見えなかったが、陽夏の攻撃を避けるために少し動いた際に何となく見えた。
俺はそこに近ずき、がむしゃらに黒鉄を振り回す。
その度に、白いモヤが後ろに後退していき、敵の位置を伝えてくれるが、そのモヤは直ぐに消えてしまううえに、すばしっこく動くため、俺の攻撃は中々当たらない。
「晴輝、伏せて!」
陽夏の叫び声が聞こえる。
俺は陽夏の指示に素直に従い、その場に伏せる。
【七月流火】
陽夏が一撃を放つ。
頭上でとてつもない威力の斬撃が通り過ぎる。
が、その一撃を白いモヤは上手く躱したようで、白いモヤは高く跳んだ。
しかし、それを見逃す俺じゃない。
俺はその白いモヤにあわせ黒鉄を振るう。
くっ、浅いか!
俺の刀には確かに何かを切った感触はあったが、少なくともクリーンヒットとはなっていない様だ。
しかし、一撃当てられたのはデカい。
「よし、今のうちだ、逃げるぞ!」
俺は陽夏を連れ、先を進む階段にかける。
一撃でも攻撃を喰らえば少なくとも今まで通りの動きは出来ないはずだ。
俺レベルの回復力を持っていれば別だがな。
階段までにはなかなかの距離があったが、俺たちの速度にかかればものの数十秒で階段まで辿り着く。
すぐさま出ようとするが、陽夏が階段の前で立ち止まる。
「どうしたんだ!?」
「だめ、何かこれ以上先に進めない!」
なんだって!?
陽夏の言葉を信じてない訳じゃないが、一応俺も調べてみるが、確かに何故かこれ以上先に進めない。
つまり、俺達はまだここから上がれないようだ。
殴りまくったりすれば壊れるのかもしれないが、そんな事を試している暇もない。
「戦うしな無いってわけね…………。」
「そうみたいだな……………。」
ここまで来てしまったため、さっき来た階段までの距離はかなりのものとなってしまった。
それを体制を立て直したこちらからは見えない遠距離攻撃をしてくる敵から逃げながら向かうのは無謀だ。
「どうする? なんか作戦とかはないの!?」
「…………無い!」
はっきりいって目に見えない相手と戦うなんて異常事態の中でも異常事態なので、上手く思考が回っていない。
俺たちが作戦会議しているうちにもう矢が飛んでき始めた。
幸いその矢は俺たちには当たらなかった。
「まずいな…………。」
このまま防いでいるだけじゃジリ貧だ。
何か考えなくては…………。
「待って、何かあのモヤみたいなのに赤いの少し混じってない?」
陽夏は一瞬見えたモヤを指さしそう言う。
「本当だ………まさかあれ、血か?」
あのモヤはさっきとは違い、白いモヤに加え赤いモヤもではじめている。
しかも心なしかさっきよりも白いモヤの量も多くなっている様だ。
赤いモヤなら白いモヤよりも良く見える。
「…………反撃開始ね!」
陽夏が上機嫌にそう言い、刀を構える。
「晴輝はとりあえず何とかしてあのモヤを出させて! そのあとは私がドデカイのを一発撃ち込むから!」
「了解!」
そこから俺達は攻勢に乗り出した。
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