☆9 理由

 時を少し遡って、大晦日。もう数時間で年明けという頃。私、唯誓いちかは姉・英姫えりかと初詣をするために引っ越し先の美空町の神社、美空神社に来ていた。だが、肝心の姉はまだ来ていない。まだ、仕事が終わってないらしくあとで行くから神社の駐車場で待っててと言われた。姉の仕事はちょっと特殊で年末も働いている。

 私は振袖を着て初詣してみたかった。だから、今日は着た。今まで、振袖は着たことがあるけれど着たままどこかへ行くことはあまりなかった。

 私はそれなりに早く美空神社に着いた。引っ越ししてきた日に家族でここに一度来ていたため地図アプリを使わずに来ることができた。

「わあー。いっぱいお店出てる!ベビーカステラにたこ焼き、チョコバナナにりんご飴。全部おいしそう」

 それから私は持ってきていたお小遣いでおいしそうな物を買って食べ歩いていた。それが良くなかったのかはたまた良かったのか彼に会ったんだ。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「やっぱり立花さん入れてあげようよ紫苑しおん

「嫌だ。なんで修学旅行まで柚子ゆずといなきゃなんねーの?」

 紫苑はまだ立花さんを修学旅行の班に入れたくないとごねていた。

 ちなみに立花さん本人は次の授業が移動教室だそうで、すでにこの教室から去っている。

「なんで?そんな嫌なのさ?」

 仲がいい二人なのになぜそこまでして立花さんを班に入れるのが嫌なのか純粋に疑問になってきた。

「なんでって言われてもなもんは嫌だからに決まってんだろ」

「いや、それ答えになってないんだけど」

「んーとなー。なんてゆーかー。あれだよあれ」

 静かに聴いて待ってんのに全然内容がない。嫌の一点張りで理由らしい理由がない。まるで小学生になんか嫌だから嫌みたいだ。相手は高校生それも二年生のはずなのに小学生を相手にしているみたいだ。なんか疲れてきたよ。

「これだー!」

「何?どうした紫苑?急に」

「柚子を班に入れない理由ってやつ?」

 わかってなかったのかよ。

「俺たちずっと一緒にいるんだけどさ。幼稚園も一緒で家も近くて小学校も中学校もそして高校も。行き帰りも一緒で家族の仲もいいから休日に出かけることもあって。昔は楽しくて良かったんだけど、高校に入ってからはなんか柚子のことがちょっとウザく感じてきちゃって。なんか休める場所っつーか。時間が少なくて。で、この修学旅行はチャンスだと思ったんだよ。柚子と離れられる。自分の時間、友達との時間を大切にできると思った。それにあいつも友達と行きたがってたし」

 その友達にも切られて、お前のところに立花さんはきたんじゃないか。他に頼れる人もいなくてそれでそれで。

「なあ、紫苑」

「??」

「お前、人に裏切られたことあるか?」

「なんだよ。急に関係あんのかそれ」

「あるから訊いてる」

「ないけど……」

「俺はある。それも何回も。伊達にぼっちやってなかったからな。人に裏切られ続けると人はいつか人間不信に陥る。人を疑い続ける生活は全く楽じゃない。しんどくなるだけだ。でも、ずっと一緒にいた人のことは信じたくなるときがある。そう立花さんはお前が最後に砦なんだよ。お前だけが今の立花さんを守れると俺は思ってる」

「なんだよ。それ。俺の意思は?俺に自由はないのかよ」

「そのくらい同じ班になろって約束して楽しみにしてた。立花さんは」

「知るかよ!俺だってお前と班を組んで柚子に邪魔されずに友情を大切にしたいんだよ。そろそろ友達作って自立しろよ!」

 そんな言い方ってないだろ。ちゃんとできてるし、その友達と班が組めなくなったからこうなってだろうが。

「じゃあ。俺が言ってやる。紫苑、俺はお前と班を組まない。立花さんと一緒に班なる。男女のペアなら受け入れの幅は広いだろ」

「そんな。新汰あらた、約束しただろ。俺と組むって」

「ああ。でもそんなのなしだ。もう、俺はお前を信じられない」

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