第40話

 イスカリオテの語る人間牧場の成果。


「……ちっ」


 人間牧場の成果……か。


「人と魔物の配合。それが人間牧場の成果。つまりは、僕とその邪神を配合させるための実験を人間牧場で行っていた、ってことだろう?」


「ふふふ……」


「まとめるのであれば、僕とお姉ちゃんが生まれた研究所において邪神と配合するに足る優秀な人材を作り、人間牧場において人と魔物の配合を可能とさせる。こうすることによって、邪神の力を持った自分と戦える人材を作るのがお前の目的、ということかね」


 一旦はイスカリオテの挑発に乗り、どんな目的で何をしていたのか。

 それを僕は語ってみせる。

 恐らく、間違っていない。


「素晴らしい。実に素晴らしい。まったくもってその通りですとも。私の目的は徹頭徹尾それだけでした」


 それは、イスカリオテの口から正しいというお墨付きをもらう。


「貴方はどうやって勝つのか、とおっしゃりましたが、ご安心ください。邪神の力を使えば、私をも殺せますので」


「……だが」


 感覚、これは感覚の話だ。


「邪神の力を使えと言っても、これを使おうとした瞬間に自分が暴走する気がするのだが?」


 だが、間違いなく、僕の体を蝕んでいる邪神の力に触れればどうなるかを僕は直感的に理解出来ていた。


「えぇ、その通りですとも」


「……ちっ」


 平然と頷いてんじゃねぇよ、ボケがァ。

 暴走した時、後ろにいるリーミャたちまで巻き込むぞ……ッ。

 何が安心しろ、だ。ふざけやがって。


「何で、お前に協力者がいるんだが」


「千年も時があったのです。これくらいは当然のことでしょう?手駒の一つや二つくらいはあって当然でしょう」


 今から、リーミャたちに逃げてもらうのも一つの手だが、自分の周りにはイスカリオテの協力者と思われる敵の気配を感じることが出来る。

 リーミャたちが逃げればすぐにその彼らが襲い掛かってくるだろう。

 それに、最善戦に立つ僕なしでここから一階層の方にまで戻れる想像も、あまり出来ない。


「ふふふ……」


「……クソが」

 

 イスカリオテの言うことが事実だとするなら、今の状況は最悪に近い。

 相手のすべての手のひらの上だからだ。

 そして、イスカリオテそんじょそこらの悪役じゃない。致命的となる前に何かを語ろうともしないだろう。

 数年間、あいつの元にいたのだ。何となく性質はわかっている。

 それでも。


「はぁー」


 僕はため息を吐きながら、イスカリオテの言葉の中に何かしらのブラフがあると信じて己の手の中にある刀の柄を握るのだった。

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