014 休みの過ごし方

 潤滑油野郎を寝床にするようになってから約2週間。

 ようやく冒険者稼業にも慣れてきた。

 だが、俺の気分は決して晴れやかではない。


 マンネリし始めていたからだ。

 安定してきたとも言えるが、俺にはマンネリに感じた。


 最近は同じような1日を過ごしているのだ。


 朝は『ユウト君は変態です』でボスを狩る。

 これは必ずカスミと一緒に行う。


 それが終わると軽く休憩。

 昼ご飯を済ませたら午後の活動へ。


 午後はカスミのスケジュールによって変わってくる。

 オンライン講義がある場合はソロで、そうじゃない時は一緒に狩りへ。

 狩場はF級ないしはE級で、適当なワードで引っかかったところへ行く。

 配信を始めるのはこの時だ。


 てんやわんやしていた狩りも今では安定している。

 カスミのホールドと俺の雷霆でサクサクだ。

 多少はヒヤッとすることがあるものの、基本的には問題ない。


 体感的にはD級以上にも挑めそうな気がする。

 しかし、俺たちのランクがF級の為、D級以上には挑めない。

 挑めるランクは自分のランクより1つ上までと決まっているのだ。


 狩りが終わると魔石を換金して配信終了。

 適当な店で晩ご飯を食べながら視聴者の反応を確認する。


 当然と言えば当然だが、配信の視聴人数は日に日に減っていた。

 新米特有の初々しさが薄れ、さらにバズるネタでもないからだ。


 それでも、過去にバズったおかげか、一定数の視聴者がついている。

 チャンネル登録者の数も3万人に到達していた。

 前に比べると鈍い伸びではあるが、それでも着実に伸びている。


 俺のチャンネル登録者は大半が野郎だ。

 ヨウツベの機能で視聴者の男女比を調べたところ、9割以上が男だった。


 元々、冒険者系の配信や動画は男の視聴が多い。

 それに加えて、俺の配信では、俺よりもカスミの人気が高かった。


 カスミが登場する配信、いわゆる「カスミ回」は激アツだ。

 コメント欄は「おっぱい」で溢れ、カスミの一挙手一投足に湧き上がる。

 彼女がドジをして尻餅をつこうものなら高評価の嵐だ。

 胸だけでなく、顔もロリ系の可愛さだからウケがいいのだろう。


 もっとも、こういった活動は狩りをする日に限られている。

 休みの日は30分で済む朝のボス狩りすらしなかった。

 俺たちは冒険者ガチ勢ではないので、「一日休むと三日分の腕が落ちる」なんてセリフを吐くことはない。


 ――で、今日はそんな休日だ。


「よっしゃ! 人気ヨーチューバーの動画を観るぞ! たまの休みは引きこもりに限るぜ!」


 もはや住居と化した『潤滑油野郎』で、持ち込んだノートPCを触る。

 居間の隅にある執務机でキーボードをカタカタ、マウスをカチカチ。


「そんなこと言っていますけど、ユウト君はいつも寝る前にヨウツベ観てるじゃないですか」


 カスミはソファに座ってテレビを観ている。

 このテレビは最初からあったものだ。

 Wi-Fiを繋ぐことによって日本の番組を視聴できる。

 他国のネット回線なら他国の番組が映る不思議なやつだ。


「最近はチャンネルの勢いがないからな。かといってウケ狙いで無駄なリスクを取る気は無い。となれば、諸々の技術面を向上させるしかないだろ」


「ユウト君は努力家ですねー」


「よせ、努力は俺のもっとも嫌いな言葉だ」


「でも努力家ですよ。すごいと思います」


「努力せず楽して稼ぎたいという野望の為に努力しているわけか」


「それって本末転倒では?」


「かもしらん……が、別に苦痛じゃないし構わないさ」


 自分でも「こんなに努力家だったかなぁ」と思うことはある。

 両親に寄生してニート生活を満喫していた頃なら無理だっただろう。

 人は追い詰められたら頑張れるということなのだろうか。


「ねーねー、ユウト君」


「なんだ」


「外に行きましょうよー! 外!」


「勝手に行ったらいいだろ」


「だって寂しいじゃないですか、一人だと」


「何言ってんだ。中学や高校の友達がいるだろ」


「そうですけど、会いに行くのに時間がかかるんだもん!」


 俺は「ほらよ」とキャンピングカーの鍵を投げつける。


「車で行けばすぐだぞ」


「嫌ですよー! あんな大きな車を運転できる気がしないし! それに私、原付の免許しかないんで運転できません!」


「だったらチャリだな」


「遠いー!」


 カスミが「やだやだやだ」と喚き出す。

 まるで子供である。


「ユウト君、一緒に出かけましょうよー!」


「チッ、仕方ねぇなぁ」


 作業に集中できないので、カスミと出かけることにした。


「やったー! で、どこに行きますか?」


「俺が決めるのかよ!」


「えへへっ」


「とりあえず原付を買いに行くぞ。足が必要だ。キャンピングカーは燃費が悪すぎるからな。乗用車として使うような代物じゃない」


「でも原付って高いんじゃ?」


「買えるぐらいの金はあるだろ」


「そうですけど、勿体ない!」


 俺たちはこれまで無駄遣いをしてこなかった。

 というより、無駄遣いをする機会がなかったのだ。

 故に出費は最低限の生活費のみ。

 おかげで、この2週間で50万円近く貯まった。

 もちろん各50万だ。


「原付は小回りが利くからいいぞ。それに免許があるなら乗らないと損だろ。俺も自分用の原付が欲しいと思っていたし買いに行こうぜ」


「もー、それを先に言って下さいよ! ユウト君が買うなら私も買います!」


 そんなわけで、俺たちは原付を買いに出かけた。

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