38:貴族院へ

 


 病院を出たジュリアは、その足でとある建物に向かった。

「約束が無いのだけど、ステファノおじ様にお会いできるかしら?」

 貴族院の受付で、ジュリアは笑顔を振りまいていた。


 対応した受付係は、冷静を装いながら混乱していた。

 どう見ても学生である年齢の少女が、貴族院最高責任者をファーストネームで呼び、約束も無しに面会を願い出ているのだ。

「おじ様」と呼んでいるので、おそらく親戚だろう予想は出来た。

 しかしその先の判断が出来ない。


 おかしな訪問者を断るのも、受付係の仕事なのだ。

 来た人間全てを取り次げば良いわけでは無い。


「お嬢様、いつもの受付の方ではありませんよ。まず名乗らないと」

 ジュリアに付き添っていた護衛兼侍女がコッソリと耳打ちする。

 貴族院の受付は、来訪者が善人ばかりでは無い為に、皆同じ髪型で同じような雰囲気にしてある。

 逆恨みで襲われたりしないように、態と見分けがつきにくくしてあった。


「あら、ごめんなさい。ジュリア・アンドレオッティと申します」

 ジュリアが名乗ると、受付係は勢いよく席を立った。




 案内された応接室で、ジュリアは紅茶を楽しんでいた。

 香り高い紅茶は、丁重に持て成すべき客にだけ出されるものだが、それをジュリアは知らない。

 いつも通り美味しい紅茶だと思っていた。


「待たせてすまないね、ジュリア」

 ノックと共に現れた落ち着いた雰囲気の紳士は、ジュリアに親しげに声を掛けた。

「こちらこそ、突然伺ってしまい申し訳ございません」

 ジュリアは席を立ち挨拶をする。



「あれかな?この前訴えていた詐欺と名誉毀損の件かな?」

 ジュリアの向かいのソファに座りながら、ステファノ・キアロモンテ大公が言う。

 ジュリアが「おじ様」と呼ぶこの男は、実際には血縁関係は一切無い。


 現国王の弟であり、貴族院最高責任者。

 本来は婚約者詐称や名誉毀損のような、小さい事件を担当するような立場では無いのだ。

 それでも担当したのは、訴えたのがアンドレオッティ子爵家の後継者だからだった。


「実は、その被告が今度は暴行事件を起こしましたの。理由は『俺の女に手を出したから』ですって」

 ジュリアはとても良い笑顔で、リディオの更なる罪を告げた。



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