第8話 これはファイアボールです
翌日ルルを連れて王都を出る事にした。
目指すは氷の都と呼ばれる国だ。
「氷の国と言うとアイザンドラ王国という場所ですよね?」
「そうだよ。ルルよく知ってたね」
「はい。氷の国と言うと有名ですから」
正解できたようで少し喜んでいるらしいルルを連れて、俺達は馬車に乗りアイザンドラ王国に向かっていたのだが。
「どわっ!」
「きゃっ!な、なんで急に止まったのでしょうか?」
俺たちが戸惑っていると馬車の御者が話しかけてきた。
「すまねぇな兄ちゃんたち」
「本当にびっくりしたよ。急に止まってどうしたんだ?」
「それがなぁ。ちょっと降りてくれるか?そっちの方か説明しやすい」
「分かった」
俺は降りて御者から状況を聞く。
「馬車の進行方向にモンスターがいやがってな」
「ほんとだな。あれは、この辺りに出現するアイスウルフかな」
「悪いな兄ちゃん。これじゃ遠回りするしかない。乗ってくれ。迂回ルートを探す……ってこっから迂回すんなら丸2日かかっちまうなぁ」
そんなことをぼやく御者に答える。
「俺が何とかするよ」
「俺がって、兄ちゃん。冒険者とは聞いているがアイスウルフが10匹いるんだぞ?一緒に乗ってる嬢ちゃんと一緒でも流石に無理じゃねぇか?見たところまだ冒険者になったばかりって歳だろうし」
俺は頷いてウィンドカッターを飛ばす。
その全てがウルフの首を切り裂き倒れるウルフ達。
「おいおい、ウィンドカッターを10枚も出すのかよ……とんでもねぇな。しかも打ち漏らし0なんて。すげぇな」
「道はできたよ」
「と、とんでもねぇな……兄ちゃん。こ、ここまで正確にウィンドカッターを飛ばすなんて何者だよ……見たことねぇ、こんな冒険者」
「ただの通りすがりの冒険者さ」
そう答えて俺はもう一度馬車の荷台に乗りながら口を開く。
「また何かあったら言ってくれ。迂回は出来るだけなしで」
「お、おう!また何かあったらそん時は頼むぜ!」
そうして荷台で揺られていると御者が声をかけてきた。
「兄ちゃん。運賃だがやっぱいらねぇわ。運んでるものに食料とかあってな。迂回ルートだと腐っちまってたんだ。いやぁ助かったよ」
「気にしないでくれ」
「そう言うな、礼だ。受け取ってくれ」
御者が袋を投げてきた。ずしりと重い。
「金貨3枚はあるぜ」
「こんなに貰えないよ」
「いやいや、安いくらいだぜ!貰ってくれ。迂回で商品をパァにしてたらもっと損失出てるからな」
強引にそう言って渡される。
じゃあ貰っておこうか。
そんなこんなで氷の国アイザンドラに数時間で着いた。
「じゃあよ!氷の国!楽しんでけよ!」
おっちゃんはそう言って俺達を下ろすと仕事をしに行った。
「はぁ……寒いですぅ……」
ガクガクと震えているルル。
「温めてください!」
俺に飛びついてきた。
「ファイア」
俺は自分とルルの周りに火の玉を浮かべた。
「これで寒くないでしょ?」
「こ、こんなこともできるんですか?!」
「基礎魔法の応用だよ」
「わ、私はできませんよ?!」
同じことがしたいのかルルが真似してるけど
「だ、だめです、浮かびません。ほらシロナ様が天才なのですよ!」
「そうかなぁ?」
ただの基礎魔法の応用だと思っているから何とも反応に困るな。
なんて事を思いながら歩きながら説明する。
「ファイアボールのイメージは基本的に投げつけたりするのに最適化するんだけどそのイメージを変えるんだ」
「変える、ですか」
「うん。ファイアボールのイメージを自分の周りを飛ぶ火の玉にしてみると、こんなふうになるよ」
「る、ルルにはよく分かりませんけど、シロナ様が凄いというのは分かりました!」
そんな会話をしていた時だった。
「ぐひひ、嬢ちゃん。攻め攻めな衣装してんなぁ」
と、男がルルに手を伸ばそうとしていた。
ルルはアサシンなせいで布面積が狭い。
確かに攻め攻めだが
「俺の奴隷だ。触れるなよ」
ウィンドカッターを男の周囲に浮かべる。
「ひっ!ま、魔法かよ!し、しかも風属性?!」
「直ぐにどっか行ってくれないかな?」
「す、すみませんでしたぁぁぁぁああ!!!!!!」
走って逃げていく男。
それを見てルルが飛び跳ねる。
「す、すごいです!シロナ様は!あんなふうにウィンドカッターで牽制して人を傷つけずに説得してしまうなんて!」
「大したことじゃないよ」
俺はそう答えながらこの氷の国で聞き込みを始めることにする。
「ルルも知ってるかもしれないけど、この国で祀られている神はシバだね」
「シバですか」
「うん。氷を司る神、シバだって。だからシバの加護を受けているこのアイザンドラは氷の国と呼ばれてる」
「物知りなのですね、シロナ様は。私は由来までは知りませんでした」
「俺はこれでも勉強してたからね」
そう答えて聞き込みを続けるが。
「だめだなぁ。有力な話がないな」
「そうですね。皆さん。ルル達に対して距離を置いてるような感じがします」
「どこの国でも外から来た人に対していい気はしてないんだろうね」
そんなことを思いながら俺は更に聞き込みを続けたが。
「シバが何処にいるかも分かんないな」
この世界では神と人間は共存関係にあるらしく、俺たちの暮らすこの世界のどこかにいるという話だが、唯一聞けたのはこの氷の国の近くにある、氷山のダンジョンの奥にいると言われている、ということだけだった。
「仕方ない。とりあえずあのダンジョンに行ってみようか、とその前に」
「何かする事があるのですか?」
「1日で帰って来れるか分からないしとりあえず準備して行こうか」
とりあえずルルの装備じゃ寒そうだし何か買ってあげないとな。
そんなことを思って服屋に向かったが
「お前らに売るものはねぇよ、余所者」
そう言われて追い返されるだけだった。
冷たすぎない?この国の人。
氷の国だから心まで凍ってるのかなぁ?
そんなことを思いながら、遠かったがギルドで必要なものの購入を済ませた。
「寒いですぅ……」
俺はルルの近くにいた火の玉を掴んでそれを引き伸ばしてルルの体にまとわりつかせた。
「これで寒くないんじゃないかな?」
「こ、こんなことも出来るのですか?!」
「元々は俺の魔力だったものだからある程度の事はできるよ」
「ほ、他にはどんな事が出来るのですか?!ルルもっと見たいです!」
「うーん。こんなのとか、どう?」
「わ!火の玉が犬の形になりました?!」
そんな事をしながら俺はルルを連れて氷山に向かう。
「これはさっきの応用なんだけど」
「はい」
「こうやって火の玉を犬のようにして、ファイアボールのイメージも変えてあげると」
「い、犬が走り出しましたよ!!!」
俺たちの前を1匹の火の犬が走り回る。
そして氷山に向かうまでにいたモンスター達を蹴散らしていく。
楽チン楽チン。
「こ、この魔法はなんと言う魔法なのでしょうか?!」
「え?ファイアボールだけど」
「ファイアボールって何なんでしょうね」
急に哲学者みたいになるルル。
確かにこれはもうファイアボールでは無いかもしれないが
「でもこれはファイアボールの応用だしなぁ」
なんて事を考えていると
「着きましたよ!氷山の入口!」
ルルの声で視線を前に向けると、俺たちの前の氷山には横穴があった。
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