錯雑

 明るい、明るい心を探していた。切り刻まれた自己は、けっして元には戻らない。ああ、どうして? 天気はこのように移り変わって(天気予報を無視して)、わたしの上に雨を降らせる。晴れた空ではなく、雨が救いになった時など、とうに消え去ってしまった。(恵みの雨)と、人は言う。稲田に雨は降り、穂を垂れさせる。そんなふうに雨は、わたしのこうべを垂れさせる。美しいものよ、どうか、今はわたしにかまわないでほしい。汚辱だけが、今の救いとなっているから。(混乱した精神)と、人は言う。わたしは混乱してなどいない、むしろあまりにもはっきりした想念が、わたしを切り刻み、消失させていくのだ。もう何日も、シャワーを浴びていない。わたしは、ざんばら髪の落ち武者のようになって、ただあてどなく精神の遍路を繰り返す。痛む頭は何も産み出しはしない。そのことに満足しているわけではない。ただ、悲しいのだ、淋しいのだ、そうして、どこかに逃げ道はないのかと、わたしは誰かに問いたい──(答えてくれる者など、あっただろうか?)。無常よ、わたしにもいつかそれが分かる時が来るのか? それは死の時ではないのか? 迷い、戸惑い、途方にくれている今のわたしが、新しい道をどこに見つけられるというのだろう。厄災の時は去った。今は、ただ焼け野原に立ち尽くしているわたしがいる。(救いの手を、誰かがわたしに差し伸べた)わたしはそれを振り払ってでも、遠くへ行かなくてはいけない。誰も来ない遠くへ。心すら追いつけない遠くへ。(ああ、スピード狂ね。分かるわ)(分かるというのは、誰? 知人? 友人? 家族? ……過去のわたし? 未来のわたし?)ここは十字路で、東、西、南、北。どこへも、行こうとすれば行けるのね。そんな愚にもつかない答えで、わたしを救えると思ったなんて! わたしは病み、死に、屍となって、ひとつの歌を歌うのだろう。(美しいものよ、美しいものよ、お前たちは、常にわたしの敵だった)と。そして、そして、どうなるというのか。……歴史の断片のひとつとなって、わたしは過去から未来を呪うだろう。(あなた方は幸せであれ)という、最上級の呪いを。断頭台がここにあったのなら、わたしは迷わずわたしを断首する。そうだ、わたし自身への残酷を、今一度取り戻そう。精神の虜囚であってはいけない。生活の虜囚であってはいけない。わたしは血を流し、その血を口に含んで、再び吐き出すのだ、罵倒とともに。──死の時は去った。ここは、永遠の監獄である、と。

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